|
研究内容 |
大部分の遺伝子にイントロンが存在し、核と細胞質が核膜によって空間的に隔てられている真核細胞においては、mRNA前駆体のスプライシングと、スプライス後の成熟mRNAの核から細胞質への輸送は遺伝子発現の必須プロセスとなっている。スプライシング反応とmRNA核外輸送複合体の形成は、核全体で無秩序に行われているのではなく、実際には特定の核内ドメイン(核スペックル)で行われている。核スペックルは多数のスプライシング因子やスプライシングに関与するsnRNA(U1〜U6)を含み、遺伝子の転写活性に応じて形態変化を示すダイナミックな核内構造体である。遺伝子発現に必須な核内ドメインであるにも関わらず、その機能及び膜構造を持たない核スペックルが各因子を集合(結合と解離を繰り返している)し、その構造を維持する機構については未だに不明な点が多い。本研究では、スプライシングとmRNA核外輸送における核内ドメインの役割と形成機序を明らかにするため、核スペックルを構成する因子群のうち、特にRNA成分に焦点を当てて解析を進める。即ち、(1) 細胞質での修飾反応後、核内へ輸送された各種snRNAがどの様な機構でカハールボディー及び核小体を経由して最終的に核スペックルに移行し局在化するか(snRNAの核内ダイナミクス)、(2) スペックル内におけるmRNA前駆体のスプライシング反応と輸送複合体形成プロセスの可視化によるスプライシングと核外輸送の制御機構解明、(3) スプライシングによって切り出された大量のイントロンRNAの核スペックル内での動態と代謝機構、(4) 核スペックル内に安定的に存在するnon-coding poly(A)+ RNAを解析し、ドメイン形成の基盤構造に関連している可能性を含めてその機能を明らかにする、(5) 我々がスペックルの隣接部位に最近同定した新規核内ドメインで、転写不活化に伴ってmRNAを蓄積するパラスペックル様核内ドメインTIDR(Transcriptional Inactivation Dependent RNA domain)の機能と形成機構の解明を行う。また、分裂酵母mRNA核外輸送温度感受性変異株(ptr1〜ptr11)のうち核膜や核内構造に異常を示す変異株の解析を詳細に行い、mRNA核外輸送過程における核構造の機能と役割について研究を進める。 |
 |
谷 時雄(研究代表者)
<熊本大学理学部理学科生体機能学講座 教授> |