セイタカイソギンチャク
Aiptasia pulchella

刺胞動物に属するサンゴ(特に造礁サンゴ)は内胚葉細胞に褐虫藻(zooxanthellae)と呼ばれる渦鞭毛藻を共生させています。サンゴは褐虫藻にすみかと無機栄養塩を提供し,褐虫藻はサンゴに光合成産物を提供することで互いに利を得ています(相利共生)。正常な環境ではその関係は安定ですが、水温上昇などでストレスを受けるとその共生関係は破綻し、白化(bleaching)が起こります。白化とは褐虫藻がサンゴから放出され、サンゴ骨格が白く透けて見える状態を指します。サンゴは褐虫藻を放出することによって色素を失うばかりでなく、長期間褐虫藻からの栄養供給が途絶えることによって死滅し、ひいてはサンゴ礁生態系の崩壊へとつながります。サンゴ成育の本質ともいえる共生メカニズムを解明するためには、実験室内でその共生関係を維持し、また環境変化における応答を分子、細胞レベルで解析することが必須です。しかし、サンゴは成長が遅く、また年に1回しか産卵しないため、実験室内での繁殖・飼育や人為的環境コントロールが困難であることが研究進展の障害となっています。

セイタカイソギンチャク(Aiptasia)は、サンゴと同様に、刺胞動物門(Cnidaria)、花虫綱(Anthozoa)に属し、その体内に褐虫藻を共生させています。このイソギンチャク-褐虫藻の共生関係はサンゴ-褐虫藻の共生関係を模していると考えられ、実験室内で飼育し野生における生態を再現することが困難なサンゴの生理学研究の良いモデルであると考えられています。我々は、サンゴ‐褐虫藻の共生メカニズムを分子、細胞レベルで解明するために、このセイタカイソギンチャクのモデル生物化を目指しています。また、セイタカイソギンチャクのモデル生物化はサンゴ‐褐虫藻共生のモデルとしてばかりでなく、イソギンチャクそのものやその他の刺胞動物の生態を分子、細胞レベルで理解し、動物進化のしくみを明らかにするためのモデルとなることも期待されます。

基礎生物学研究所 環境光生物学研究部門 皆川 純・高橋 俊一
基礎生物学研究所 形態形成研究部門 上野 直人

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ゲノム情報

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