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    “ニジマスの卵原細胞は精子幹細胞へ分化転換する”

     従来、始原生殖細胞は性分化期に雌雄の生殖細胞へと不可逆的に分化するものと考えられていました。本研究ではニジマスの卵原細胞を雄個体の精巣内へ移植すると、そこで精子形成を開始し、最終的には大量の機能的な精子を生産し続けることを明らかにしました。このことは卵原細胞が精子幹細胞へと分化しうることを示しています。
     本研究では、XY型の性決定様式に従い、性転換を行わないことが知られているニジマスを材料に用いました。まず、性分化を完了し減数分裂を開始している卵巣からセルソーターを用いて卵原細胞と初期卵母細胞のみを含む細胞集団を調整しました。これらの細胞を3倍体化処理により不妊化した孵化直前(受精後25日)の稚魚(性分化以前)の腹腔内へと移植すると、移植細胞の一部は、宿主の生殖腺へと移動し、そこに取り込まれた後、体細胞分裂を開始しました。卵母細胞は体細胞分裂を行うことはできませんので、ここで宿主に取り込まれた移植細胞は、体細胞分裂する能力を保持している卵原細胞であることが確認されました。さらに、これらの移植細胞は宿主の精巣内で精子形成を開始しました。通常のニジマス3倍体は正常な精子形成は全く見られなかったのに対し、卵巣由来の細胞を移植した宿主からは大量の機能的な精子が得られました。これらの精子をニジマス卵に授精すると、完全に正常なニジマス次世代が生まれました。この卵原細胞に由来する精子形成は少なくとも2年間にわたり継続したうえ、宿主生殖腺に取り込まれた平均3.3個の卵原細胞は、その後30億尾以上の精子を生産したため、移植した卵原細胞は宿主精巣内で精原幹細胞へと分化転換したものと考えられました(図1)。

    News Release 吉崎 1
    なお、同様の実験により卵原細胞を雌宿主へと移植すると卵形成を再開し、機能的な卵を形成することも明らかになっています。これらの事実はニジマスの卵原細胞は高い性的可塑性を有していること、さらにXXの性染色体を有する雌性生殖細胞であっても、精巣内の微小環境にさらされることで精子へと分化すること、言い換えると生殖細胞の性は細胞自律的な要因よりも、むしろ細胞環境によって決まることが明らかになりました(図2)。
    News Release 吉崎 2

    「発表雑誌」
    Development, vol.137, 1227-1330, (2010)
    タイトル:“Sexual plasticity of ovarian germ cells in rainbow trout.”  >> 詳細
    著者:Goro Yoshizaki, Masaki Ichikawa, Makoto Hayashi, Yoshiko Iwasaki, Misako Miwa, Shinya Shikina, Tomoyuki Okutsu

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