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    “精子形成不全マウスの精巣組織から培養下での精子産生に成功!”

     小川らの研究グループは、新生仔マウス精巣組織を器官培養し、精子産生と産仔に成功し、昨年3月にその成果をNatureに報告しました(Sato T. et al. Nature 2011)。その後も、この技術を発展させ、男性不妊症の診断・治療に貢献するために、プロジェクトを進めてきました。今回、重篤な精子形成不全により不妊になる遺伝子変異マウスの精巣組織片を精子形成誘導するためのサイトカインを添加した培地で培養することで、精子形成を誘導し精子産生に成功しました(図1)。

    Newsrelease_Ogawa_PNAS(図1)

     男性不妊の原因のほとんどは精子形成障害によるものですが、それらの病態はほとんど明らかになっておらず、有効な治療法は確立されていません。カップルのおおよそ10-15%が不妊で、その約半数は男性側に原因があるといわれています。そして、それら男性不妊のおよそ3/4は、精子形成障害によるものですが、それらの病態はほとんど明らかになっていません。よって有効な治療法が確立されていないのが現状です。精子形成障害の病態を精巣内の細胞レベルで考えてみると、その原因は生殖細胞自身に起因する場合もありますが、ホルモンや成長因子などの異常による精巣内環境に問題がある場合、あるいは両方の要因に起因する場合も考えられています。本研究では、精巣内環境異常による男性不妊のモデルとして、Sl/Sldマウスを対象に治療法の開発を試みました。Sl/Sldマウスは、セルトリ細胞が発現する精子形成に必須の成長因子であるc-kit ligand(KITL、別名:幹細胞因子)に欠損があり、膜結合型KITLを作ることができません。そのため精子形成が全く進行せず、精巣内には未熟な精原細胞がわずかに存在するのみになる代表的な不妊マウスです。
     そのSl/Sldマウスの精巣組織を、組換え体KITLを添加した培地で器官培養したところ、精子形成が進行し精母細胞と少数ながら円形精子細胞が形成されることが分かりました。さらに、Colony stimulating factor-1(別名:マクロファージ刺激因子)を追加するとKITLと相乗的に作用し、精子形成をさらに促進し、精子産生されることを発見しました(図2)。

    Newsrelease_Ogawa_PNAS(図2)

    そこで産生された精子細胞を用いて顕微授精実験を行ない、産仔を得ることに成功しました。その仔マウスは正常に成長し、自然交配にて孫世代の子孫も産生したことから、生殖能も正常であることが確認されました(図3)。

    Newsrelease_Ogawa_PNAS(図3)

     これらの結果は、精巣内環境異常により精子形成不全となっている不妊症の場合には、その精巣組織を適切な条件で培養することにより、精子産生できる可能性があることを示すものです。現段階では、ヒトの精巣組織の培養自体が難しいため、この技術をそのままヒトへ適用することはできませんが、将来的に不妊治療への道筋を示したことは、非常に意義深いものと考えられます。

    「発表雑誌」
    Proc. Natl. Acad. Sci. USA. published ahead of print September 10 (2012)
    タイトル:“Testis tissue explantation cures spermatogenic failure in c-Kit ligand mutant mice."  >> 詳細
    著者:T. Sato, T. Yokonishi, M. Komeya, K. Katagiri, Y. Kubota, S. Matoba, N. Ogonuki, A. Ogura, S. Yoshida, *T. Ogawa

    参考文献
    Sato T, Katagiri K, Gohbara A, Inoue K, Ogonuki N, Ogura A, Kubota Y, Ogawa T: In vitro production of functional sperm in cultured neonatal mouse testes. Nature 471, 504-507 (2011)

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