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    “ほ乳類の精細管(ニッチの場の基本構造)の時空間的な形成機序の解明”

     ヒトを含めた哺乳類では、オスのみに配偶子幹細胞GSCが存在し、オスのみでみられるセルトリ細胞がニッチの場を提供します。そのため、性腺のGSCを維持するニッチ形成能は、Y染色体上の精巣決定遺伝子Sryの下流のプログラムで制御されています。マウスでは、ニッチの場の基礎となる精細管の構築も、胎生期のSry発現開始後すぐに(約36時間)誘導され、形態的に精巣へと分化します(図A)。
     また、ヒト、マウスなどの胎生期の性腺の特徴は、前後軸に沿って非常に細長い構造をとることにあります。このユニークな形は、腸間膜中に散在している移動中の始原生殖細胞(PGCs)を性腺内に効率よく取り込むのに有利な構造といえます。しかし、その一方で、細長い構造が一因で、Sryの発現は原基全体で同時に開始せず、胎齢11.0日頃より中央部から前・後端に向かって徐々に波及し、両端まで達した後、前端から後端に向けてその発現が消失するといった波状の一過性の発現パターンをとります(図Aの斜線)。このSryのユニークな発現により、精巣化プログラムの開始時期が、中央部と後端部において6時間以上の時差が生まれますが、すぐ後の精細管の構築の開始は、前後軸に沿って同調的に誘導されることが分かっています。

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     我々は以下のように性分化初期の性腺の領域差の存在と精巣化のプログラムの進行を同調化する因子として、FGF9、 FGF10を同定しました。
    1: 性分化初期において、性腺の中央部の存在が、前・後端でのセルトリ細胞分化因子であるSOX9の発現維持と精細管形成に必須である。
    2: 中央部からの前・後端での精細管誘導能は、中央部領域から分泌される液性因子が寄与し、その液性因子の本体がFGF9である。
    3: 性分化期において、FGF9は、雄特異的に中央部で高い発現を維持し、その発現開始直後に下流シグナルの活性化が性腺全体に波及する。
    4: FGF10も精巣特異的に中央部から発現し、精巣誘導においてFGF9と相補的に機能し得る。
    5: FGFシグナルを抑制した場合、セルトリ細胞/精細管の形成は前・後端へと波及せず、中央部は精巣、前・後端部では卵巣構造(卵精巣)を示す。
     以上の結果は、性腺には前後軸に沿って機能的な領域差が存在し、中央部が両端部の精巣化を促進していることを初めて示したものです。さらに、性腺の精巣化の同調性については、SOX9発現の正のフィードバック因子として機能するFGF9が、性腺の中央部から分泌され、原基全体に末端まで急速に拡散します。これにより、セルトリ前駆細胞の分化の進行速度が末端部で早まり、原基全体でニッチの場である精細管の形成が同期化して進行することが示唆されました(図B)。
     本結果は、本学術領域において、性腺全体のニッチの場となる精細管の構築を素早く行う時空間的な制御機序の一端を解明しただけでなく、ほ乳類の配偶子幹細胞のニッチシステムの形成メカニズムの大きな理解に繋がるものと考えています。

    「発表雑誌」
    Development, vol.137, 303-312, (2010)
    タイトル:“FGF signaling directs a center-to-pole expansion of tubulogenesis in mouse testis differentiation.”
    著者: Ryuji Hiramatsu, Kyoko Harikae, Naoki Tsunekawa, Masamichi Kurohmaru, Isao Matsuo, Yoshiakira Kanai   >> 詳細

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