イベリアトゲイモリ
   Pleurodeles waltl

イモリやサンショウウオ等の有尾両生類は、目や四肢のみならず心臓や脳をも再生することができるとてもユニークな脊椎動物です。そのため、古くから多くの生物学者が魅了され、この驚くべき器官再生能力の仕組みを明らかにしようと研究を行ってきました。

この器官再生能力を解明するためには、再生に関わる遺伝子の機能を個体レベルで解析することが必要です。そのため、逆遺伝学的アプローチが可能な有尾両生類が求められていました。イベリアトゲイモリ(Pleurodeles waltl)は主にイベリア半島に生息する比較的大型の有尾両生類です。このイモリは餌付けがしやすいうえに成長が早く、実験室内の環境でも飼育が容易です。くわえて、一年程度で子孫が得られ、通年受精卵を得ることができるという、逆遺伝学的アプローチを用いるうえで他の有尾両生類にはない利点も兼ね備えています(Hayashi et al., Dev. Growth Differ., 2013)。2012年に核移植とクローンの研究でノーベル賞を受賞したガードン博士も、このイモリの卵や体細胞を用いて転写のリプログラミング研究を行っていました。ゲノムサイズは200億塩基対と非常に大きいですが、ゲノム解析も着実に進んでいます(Elewa et al., Nat. Comm., 2017)。

本センターでは、新しい器官再生研究モデル動物としてこのイベリアトゲイモリに注目し、遺伝子の機能を解析するための超高効率かつ迅速な遺伝子破壊技術(ゲノム編集技術)を確立することに成功しました(Suzuki et al., Dev Bio., 2018)。さらに、国内の研究者による研究コンソーシアムを立ち上げ、次世代シークエンサーを用いた大規模な遺伝子発現解析を行い、再生現象への関与が考えられる多数の遺伝子を同定しています(Matsunami et al., DNA Res., in press)。このイモリを再生生物学研究における世界的なスタンダード生物とするべく、本センターではイベリアトゲイモリを用いた研究に関する技術基盤整備と支援を行っています。

写真
右がCRISPR-Cas9で色素合成遺伝子を破壊(ノックアウト)した当世代のイベリアトゲイモリで左は野生型。CRISPR-Cas9によるゲノム編集効率が非常に高いこともイベリアトゲイモリの特徴の一つです。

基礎生物学研究所新規モデル生物開発センター 特任准教授 鈴木賢一

WEBサイト

イベリアトゲイモリ研究ポータルサイトiNEWT

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