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文部科学省科学研究費補助金「特定領域研究」細胞核ダイナミクス
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研究概要
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これまでの細胞核研究

  今日まで、遺伝子の転写やDNA複製、修復、組換え、RNAプロセシングなど、核内の個々の事象に関する研究が精力的に行われてきた。生化学、分子生物学、遺伝学的手法を使った研究により、個々の生命機能の素過程に関与する生体因子が多数発見され、その分子基盤、分子メカニズムが解析されてきた。しかし、これらの研究の多くは試験管内の反応に基づいており、実際に、核という機能発現の場で、個々の反応が時間的・空間的にどのように制御されているかに関しては、その重要性に反して、ほとんど研究されていない。

  核内のタンパク質の量は多く、核内に均一に分布したと仮定するとおよそ600 mg/mlにもなると推定される。それらのタンパク質は、生きた細胞内では、染色体DNAやRNAなどと秩序ある高次構造を形成することによって、沈殿することなく機能している。しかし、DNA分解などを含めた生化学的な処理を施すことにより、核タンパク質の多くが高度に不溶化した沈殿物となるために、このようなタンパク質に関してはこれまで生化学的な解析がほとんど行われていない。核マトリックスタンパク質と総称されるこのような不溶性タンパク質群は、核のアーキテクチャーとして遺伝子発現に大きな影響を及ぼしている可能性があるが、生化学的な解析が困難であるために、その機能解明はこれまで全く手つかずといって良いほど未解決な問題となっている。

新しい細胞核研究の潮流

  様々な生物のゲノム塩基配列が解明され、生物の「部品」となるタンパク質をコードする遺伝子が網羅的に分かってきた。このようなゲノム情報から、新規の核タンパク質の存在と機能が推定・検索され得るようになってきた。それに加えて、プロテオミクス技術の開発により、核小体など、核内の様々な構造体のタンパク質構成が包括的に理解されるようになってきた。このような状況の中で、それとは独立のテクノロジーとして、種々の蛍光タンパク質の開発や分子イメージング技術が大きな発展を見せ、生きた細胞内での分子動態の1分子解析や分子間結合の可視化も可能となってきた。蛍光タンパク質と融合した目的タンパク質を細胞内に発現させることにより、これまで生化学的な扱いが困難であった膜タンパク質や不溶性タンパク質も、生きた細胞で動的な挙動が解析できるようになったのである。このように蓄積されてきたゲノム情報を下敷きに、生化学的・分子遺伝学的解析手法と分子イメージング技術を組み合わせ、個々のタンパク質の動態を、細胞という3次元構造の中に時間を追ってマップすることが可能となってきた。

  時間軸という動的な視点に立った解析から、間期では核タンパク質を核に運ぶ働きをするインポーティンβが分裂期のスピンドル形成にも関与することや、核膜孔複合体タンパク質が分裂期にはセントロメアに存在し染色体分離に関与すること、また転写産物として作られたRNAがその転写領域のDNAを不活性なヘテロクロマチンに変化させることなど、今までの理解では予想できなかった意外な事実が明らかとなってきている。すなわち、生命活動における細胞内分子や構造体の時空間的機能変化を捉えることが可能となった。

  このようなダイナミクスの解析技術の進展に加えて、ゲノム解析技術の進展も著しく、遺伝病の原因となる遺伝子の特定が進んでおり、様々な病気が核タンパク質の異常によって引き起こされることが分かってきている。その例として核膜タンパク質の異常によって起こる「核膜病」が挙げられる。核膜内膜や核ラミナのタンパク質の欠失や変異がEmery-Dreifuss型筋ジストロフィーや家族性リポジストロフィー、早老症、Pelger-Huet奇形など多数の異なる病気の原因になることが分かってきたのである。核膜や核ラミナの変性が、このように様々な異なる症状を示す病気の原因になることからも、細胞核のアーキテクチャーが、発生や環境変化により動的にゲノム情報の発現を制御しうることが明確となってきたといえる。
         
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