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文部科学省科学研究費補助金「特定領域研究」細胞核ダイナミクス
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細胞核内部アーキテクチャーの分子構築とクロマチン機能制御メカニズム
しきり線
研究分担者
   
筒井 研 筒井 研(研究分担者)
<岡山大学自然生命科学研究支援センター,大学院医歯学総合研究科 教授>
〒700-8558 岡山市鹿田町2-5-1
TEL: 086-235-7097 FAX: 086-235-7103
E-mail: tsukken@cc.okayama-u.ac.jp
URL: http://nbgp.med.okayama-u.ac.jp/

・主な研究内容
・研究室メンバー
・最近の研究成果
・単行本・総説等
・解説
主な研究内容
・DNAトポイソメラーゼ IIβによるクロマチン高次構造と遺伝子発現の制御機構
・トポIIβとMAR結合タンパク質SP120/SAF-A/hnRNP Uの共役機構
・超らせんDNA結合タンパク質SBP75/LEDGF/p75の機能解析
・トポ IIβのSUMO化を介する誘導分解と核内局在のダイナミクス
・LAIR(遺伝子砂漠)を内蔵するクロマチン構造の解析
研究室メンバー
筒井公子(教授)
佐野訓明(助教)
細谷 修(助教)
山口(宮地) まり(助教)
木山和子(技術員)
 
最近の研究成果

Hosoya, O., Tsutsui, K. and Tsutsui, K. Localized expression of amphiphysin Ir, a retina-specific variant of amphiphysin I, in the ribbon synapse and its functional implication. Eur. J. Neurosci., 19: 2179-2187 (2004)

Purbowasito, W., Suda, C., Yokomine, T., Zubair, M., Sado, T., Tsutsui, K. and Sasaki, H. Large-scale identification and mapping of nuclear matrix-attachment regions in the distal imprinted domain of mouse chromosome 7. DNA Research, 11: 391-407 (2004)

Yamada, M., Hayashi, K., Hayashi, H., Ikeda, S., Hoshino, T., Tsutsui, K., Tsutsui, K., Iinuma, M. and Nozaki, H. Stilbenoids of Kobresia nepalensis (Cyperaceae) exhibiting DNA topoisomerase II inhibition. Phytochemistry, 67: 307-313 (2006)

Bode, J., Winkelmann, S., Gotze, S., Spiker, S., Tsutsui, K., Bi, C., Prashanth, A. K. and Benham, C. Correlations between scaffold/matrix attachment region (S/MAR) binding activity and DNA duplex destabilization energy. J. Mol. Biol. , 358: 597-613 (2006)

Lobov, I.B., Tsutsui, K., Mitchell, A.R., and Podgornaya, O.I.: Specific interaction of mouse major satellite with MAR-binding protein SAF-A. Eur. J. Cell Biol., 79, 839-849, 2000

Tsutsui, K., Tsutsui, K., Hosoya, O., Sano, K., and Tokunaga, A.: Immuno-histochemical analyses of DNA topoisomerase II isoforms in developing rat cerebellum. J. Comp. Neurol.,431, 228-239, 2001

Tsutsui, K., Tsutsui, K., Sano, K., Kikuchi, A., and Tokunaga, A.: Involvement of DNA topoisomerase IIb in neuronal differentiation. J. Biol. Chem., 276, 5769-5778, 2001

Tohge, H., Tsutsui, K., Sano, K., Isik, S., and Tsutsui, K.: High incidence of antinuclear antibodies that recognize the matrix attachment region. Biochem. Biophys. Res. Commun.,285, 64-69, 2001

Lobov, I.B., Tsutsui, K., Mitchell, A.R., and Podgornaya, O.I.: Specificity of SAF-A and lamin B binding in vitro correlates with the satellite DNA bending state. J. Cell. Biochem., 83, 218-229, 2001

Shimizu, N., Miura, Y., Sakamoto, Y., and Tsutsui, K.: Plasmids with a mammalian replication origin and a matrix attachment region initiate the event similar to gene amplification. Cancer Res., 61, 6987-6990, 2001

Watanabe, M., Tsutsui, K., Hosoya, O., Tsutsui,K., Kumon, H., and Tokunaga, A.: Expression of amphiphysin I in Sertoli cells and its implication in spermatogenesis. Biochem. Biophys. Res. Commun., 287, 739-745, 2001

Terada, Y., Tsutsui, K., Sano, K., Hosoya, O., Ohtsuki, H., Tokunaga, A., and Tsutsui, K.: Novel splice variants of amphiphysin I are expressed in retina. FEBS Lett., 519, 185-190, 2002

Isik, S., Sano, K., Tsutusi, K., Seki, M., Enomoto, T.,Saitoh, S., and Tsutsui, K.: The SUMO pathway is required for selective degradation of DNA topoisomerase II beta induced by a catalytic inhibitor ICRF-193. FEBS Lett.546, 374-378, 2003

Tomizawa, K., Sunada, S., Lu, Y., Oda, Y., Kinuta, M., Ohshima, T., Saito, T., Wei, F., Matsushita, M., Li, S., Tsutsui, K., Hisanaga, S., Mikoshiba, K., Takei, K., and Matsui, H.: Cophosphorylation of amphiphysin I and dynamin I by Cdk5 regulates clathrin-mediated endocytosis of synaptic vesicles. J. Cell Biol.163, 813-824, 2003

Hosoya, O., Tsutsui, K., and Tsutsui, K.:Localized expression of amphiphysin Ir, a retina-specific variant of amphiphysin I, in the ribbon synapse and its functional implication. Eur. J. Neurosci., 19, 2179-2187, 2004

Purbowasito, W., Suda, C., Yokomine, T., Zubair, M., Sado, T., Tsutsui, K., and Sasaki, H.: Large-scale identification and mapping of nuclear matrix-attachment regions in the distal imprinted domain of mouse chromosome 7. DNA Research (in press)

 
単行本・総説等

筒井 研,佐野訓明:I型DNA トポイソメラーゼ及びII型DNA トポイソメラーゼ.「廣川タンパク質化学」 第4巻 酵素,pp. 186-196, 2003

筒井 研,佐野訓明,筒井公子:核マトリックスのダイナミズム.「細胞核のダイナミクス」シュプリンガー・フェアラーク東京,pp.169-176, 2004

Tsutsui, K. M., Sano, K. and Tsutsui, K. Dynamic view of the nuclear matrix. (Review) Acta Med. Okayama, 59: 113-120 (2005)

Tsutsui, K. M., Sano, K., Hosoya, O. and Tsutsui, K. Expression dynamics and functional implications of DNA topoisomerase IIβ in the brain. (Review) Anatomical Science International, 81: 156-163 (2006)

筒井 研,河野真二  核マトリックスとRNAを結ぶもの 蛋白質 核酸 酵素 51巻, 14号 1964-1969 (2006)

筒井 研:DNAトポイソメラーゼIIβの生理機能.生化学73, 374-378, 2001

筒井 研:核マトリックスへの新しい視点.実験医学増刊20 (11), 100-106, 2002

筒井 研,佐野訓明:I型DNA トポイソメラーゼ及びII型DNA トポイソメラーゼ.「廣川タンパク質化学」 第4巻 酵素,pp. 186-196, 2003

筒井 研,佐野訓明,筒井公子:核マトリックスのダイナミズム.「細胞核のダイナミクス」シュプリンガー・フェアラーク東京,pp.169-176, 2004

解説

DNAトポイソメラーゼII(以下トポII)という酵素があります。この酵素が触媒する反応はDNA鎖を2本とも切り、この切れ目を通してもう1本別の二本鎖DNAを反対側に運んでから、切った鎖を再結合するというものです。その結果、2分子の環状DNAを連鎖させたり、逆に連鎖を解いたり、まるでマジシャンのような技が可能になります。1980年代半ばくらいまでにはトポIIの酵素としての性格付けはほぼ終わっていましたが、細胞内での機能についてはよく分からないままでした。

  私達は1985年頃から中枢神経でのトポIIの役割を明らかにすべく研究を始めました。1991年頃にラットから2種類のアイソフォーム(αとβ)をクローニングし、中枢神経系で発現しているのは主にトポIIβであることを見つけました。特に注目に値するのは小脳で、ちょうど最終分裂を終えて分化に向かう頃の顆粒神経細胞にトポIIβの高度な発現が観察されました。この時、神経細胞としての表現型を担う様々な遺伝子の発現誘導が起こることから、ここでトポIIβが何らかの役割をもっているに違いないと確信しました。当時すでに、トポIIαは細胞分裂期の終わりに絡まり合った娘染色体を分離するのに必須であることが明らかになっていました。

 私達はトポIIβの機能を探るため、一週間くらいの培養で自然に終末分化に向かう小脳顆粒細胞の初代培養系を使い、この間に発現が誘導される遺伝子の一部は、特異的阻害剤でトポIIβをノックダウンすると誘導されなくなることを見つけました。amphiphysin Iはこのような遺伝子のひとつで、神経細胞が活動を続けるためには必須の過程である「シナプス小胞膜の再取り込み」に関与するタンパク質です。私達はトポIIβで発現が制御される遺伝子のモデルとしてamphiphysin I自体についても研究していますが、1997年にはアイソフォームamphiphysin IIを見つけました。現在、これらはヘテロダイマーを形成して機能していることが分かっています。amphiphysin IIも培養顆粒細胞で発現が誘導されますが、予想に反してその誘導は全くトポIIβに依存しません。

  このようにトポIIβに対する依存性が遺伝子によって異なるという現象の背景には、ゲノム上での遺伝子の環境とトポIIβ作用点の位置に関連する何かがあると推測されます。トポIIが働くDNAの塩基配列には多少の好みがありますが、精製したトポIIとDNAのin vitro反応ではどのようなDNAも良い基質となり、αとβの違いもほとんどありません。しかし、DNAがクロマチンの形をとっている核の中ではトポIIが作用できるDNA領域は限られているはずです。この点を明確にするために、盛んに分化している時期のラット小脳顆粒細胞で、トポIIβが作用しているゲノム領域をショットガン的にクローニングしました。トポIIを特異的に阻害するエトポシド(VP-16)という薬剤を細胞に与えると、DNAを切断したトポIIが断端に共有結合した段階で反応が止まることを利用しています。この後さらに超音波処理で断片化した核DNAから、特異抗体でトポIIβにリンクしたDNA断片を免疫沈降して濃縮する訳です(Etoposide-mediated Topoisomerase Immuno-Precipitationを略してeTIPとよんでいる)。得られたクローンの塩基配列を決定し、ラットゲノム上での位置を調べると、多くのクローンが100 kb以上の長さをもつATに富む遺伝子間領域にマップされました。そこで私達はこのような領域をLong AT-rich Intergenic Region(LAIR)とよぶことにしました。ちなみに英語のlairには秘密の隠れ家という意味もあります。

 最近、私達はDNAマイクロアレイを用いてトポIIβに依存して発現誘導を受ける遺伝子のカタログを一挙に増やしました。培養期間中にほとんど発現量の変化しない遺伝子(グループB2)、トポII依存的に発現が誘導される遺伝子(グループA1)、トポIIとは無関係に発現が誘導される遺伝子(グループA2)に分類すると、それぞれ全遺伝子の約50%、2%、6%の内訳になります。これらの遺伝子とLAIRの位置関係を調べると、おもしろいことにA1遺伝子のみが高い割合でLAIRに隣接していることが分かりました。これはA1遺伝子の転写開始が何らかの機構によって最寄りのLAIRにトポIIβが作用する事象とリンクしていることを意味しているように思われます。amphiphysin I遺伝子の近傍にはLAIRがあり、amphiphysin II遺伝子の近くには無いという事実は、これら遺伝子のトポIIβ依存度の違いと矛盾しません。

 それではトポIIβで発現誘導を受ける遺伝子の領域ではどのような変化が起こるのでしょうか。この疑問に答えるため、ラットの19番染色体の短腕テロメアに隣接する約200 kbのRad GTPase領域をモデルとした解析を行いました。ここにはトポIIβに依存して発現が誘導される遺伝子4つを含む7つの遺伝子があります。クロマチンの高次構造解析法のひとつとしてよく使われるDNase I感受性テストでは、通常はサザンブロットで切断点を検出するのですが、私達はリアルタイムPCRを使って任意のゲノム部位を調べられる方法(DNase I-qPCR法)を考案しました。この技術により、遺伝子の発現誘導に先行して著しくDNase I感受性の高まりを見せる、すなわちクロマチンが脱凝縮する領域がRad GTPase領域ほぼ中央の遺伝子間に存在することを明らかにしました。この脱凝縮は完全にトポIIβに依存しています。また、この近傍のゲノム領域は分化が進むとトポIIβ依存的に核マトリックスへの付着を強めることが分かりました。トポIIβの作用点とこの局所的クロマチン脱凝縮の因果関係を明らかにするため、現在eTIPで濃縮されるトポIIβ作用部位DNA断片をタイリングアレイで網羅的に解析しています。

 トポIIβと共役して遺伝子誘導を担う分子が存在するはずです。この点についてはトポIIβが分化過程にある顆粒細胞の核内で複数のタンパク質と複合体を形成しているという証拠を得つつあります。とくに、このようにして同定された核タンパク質SP120との相互作用は重要です。このタンパク質はMARに特異的に結合するものとして私達がラットからcDNAをクローン化して1993年に報告しました(ほぼ同時期にヒトのホモログも報告されてSAF-A/hnRNP Uとも呼ばれる)。SP120はMARに富むLAIRにトポIIβをリクルートする分子として最有力の候補といえます。トポIIβがLAIRに働いた結果、何らかの形でその情報が近隣の遺伝子クラスターに伝わり、その一部に局所的なクロマチン脱凝縮が起こり、その一帯の遺伝子の転写誘導が引き起こされるという流れが考えられます。近隣と言っても遺伝子とトポIIβ作用点の距離は場合によっては数十kbもあり、位置効果が表れる際にcisに情報が伝わるとすれば、DNAルーピングによる遠隔部位間の相互作用が起こっていると仮定するのが最も自然です。トポIIがLAIRの中に作用した結果、その局所にどのような変化が起こるのかについては全く解っていません。また、核内でLAIRはどのような領域を占めているのか、いわゆるヘテロクロマチンとは違ったドメインにあるのか、LAIRを規定するような修飾(目印)がヒストンかDNAに付けられているのかというような点は、核構造の構築という観点からも非常に興味が持たれます。これから数年のうちにこれらの疑問を解決しようと考えています。

  トポIIβの作用部位が核内ではごく限られた領域にあり(エトポシドによる切断で生じるDNA断片が大きいことから分かる)、それがある特徴をもつゲノム領域に集中していること、そして何よりもトポIIβがクロマチン脱凝縮を伴う遺伝子の転写誘導を媒介しているという私達の結果は今までの常識を覆すものでした。私達がLAIRと呼んでいる領域は、遺伝子砂漠(gene desert)と表現される遺伝子に乏しい長大なゲノム領域を含み、アイソコア(isochore)というGC含量モザイク構造とも密接な関連をもっています。このようなゲノム構造の特徴と同時に2種類のトポIIアイソフォームをもつ生物は進化的には高等脊椎動物に限られますから、トポIIβが関与するこのような遺伝子制御機構は酵母、線虫、ハエなどには存在しないユニークなものであると言えます。1970年にフランシス・クリックが予言した2000年の時点での分子生物学の現状では、ジャンクDNAの意義と遺伝子調節配列については解明されていることになっています。しかし、ここ数年間で、転写されているゲノム領域は予想以上に広く、タンパク質をコードしないRNAがたくさん産生されることが分かってきましたが、全貌の解明にはほど遠いのが現状です。つまりこの分野ではこれからも新しい発見が期待できるということになります。私はトポIIβによる遺伝子制御もこの範疇に入る現象と考えています。

         
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