遺伝情報を担う染色体を細胞分裂を経て娘細胞に正確に受け継ぐには、分裂期における染色体分配の空間的な制御が重要である。分裂期染色体の配置は紡錘体(mitotic spindle)と呼ばれる染色体と微小管を主成分とする装置の働きで制御される。紡錘体は分裂期にダイナミックにその形(長さ)を変化させて染色体を分配する。このようなダイナミックな過程の理解に画像処理を利用した定量化と、コンピュータ・シミュレーションを利用したモデルの検証が貢献すると考えた。特に、紡錘体が細胞の大きさに応じて伸長する現象に着目した。この現象は細胞の大きさによらずに染色体を確実に娘細胞に分配するために重要だが、これまで定量的な測定もモデルの提唱も行われていなかった。我々は線虫C. elegans初期胚卵割過程において、細胞の大きさと紡錘体の大きさを測定した。この結果、細胞の大きさと紡錘体の大きさにきれいな比例関係が存在することを発見した。これは発生過程における細胞・紡錘体の大きさを包括的に定量化した世界で初めての成果である。紡錘体の大きさの制御について、従来知られていた三量体G蛋白に依存する制御機構以外に、G蛋白に依存しない機構が紡錘体の伸長に不可欠な寄与を行っていることを見出した。これらの結果に考察した紡錘体の伸長に関するモデルを、コンピュータ・シミュレーションによって検討し、in vivo測定との比較から、妥当なモデルとそうでないモデルを峻別することに成功した。


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