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  • 小川毅彦

    研究概要 小林悟

    研究目的

     マウス精子幹細胞(GSC)においては、機能アッセイ法である精細管内移植法と、GSCを増やすことができる培養法という幹細胞研究に重要な2つの実験法がすでに開発されている。申請者は移植法の開発を手がけ(Nat. Med. 2000)、培養法にも精通している(Arch. Histol. Cytol. 2004)。さらに新生仔精巣細胞を用いてヌードマウス皮下に精細管を再構成し(異所性ニッチ再構成)、培養GSCからの精子細胞産生に成功している(Biol. Reprod. 2007)。 現在の培養系では、GSCは自己複製能を失った精原細胞と共に集塊を作って増殖するが、単一細胞になると生存できない。このことは、培養細胞集塊内に「GSCが生存・増殖できる微小局所環境」というニッチが生成したと考えられる。一方、精巣内GSC/ニッチ・システムにはセルトリ細胞など体細胞と血管に由来する因子など多様な因子が関与していると考えられる。それゆえ、培養皿内に形成されたin vitroニッチは、精巣内ニッチの部分的な再構成に過ぎない。しかしながらin vitroニッチの実体が分子レベルで解明されれば、精巣内ニッチや他種動物のGSC/ニッチ・システムとの比較検討により、ニッチ・システムの共通原理解明に大きく貢献するだろう。人工産物であるが故に改良が可能であり、精巣内ニッチにより近づけることも可能と思われる。 現在の培養法の限界は、げっ歯類以外のGSCを維持・増殖できない点にある。また上記の精細管内移植法も、ほ乳類全般への応用は困難である。ヒトを含む多種ほ乳類のGSCを培養系で解析し、コントロールするためには、in vitro精子形成系又は、新たなGSCアッセイ法の開発が必要である。 本研究では、in vitroニッチを対象とした研究から、マウスGSC/ニッチ・システムの分子機構の解明を目指す。その成果を用いて、ヒトを含むほ乳類全般のGSC培養系と精子形成系の開発を試み、男性不妊症(精子形成障害)の病態解明・治療法開発につながる成果を得ることを目標とする。



    研究内容

     上記目的を達成するために、以下の研究を行う。 ① in vitroニッチの分子機構の解明:現在のGSC培養系では、単一GSCを維持・増殖できないことや培養細胞内のGSCが約1%と低頻度であることから、未だ知られていないin vitroニッチの重要な構成要素の存在が想定される。培養精原細胞のマイクロアレイ解析と計画研究3で行われる精巣内ニッチ領域のマイクロダイセクション法により得られるニッチ因子の候補から、in vitroニッチの因子(群)を発見し、GSCの維持・増殖に関わる分子機構を明らかにする。 ② GSC培養条件の改良とin vitro精子形成系の開発:培養条件下でのGSCの自発的分化を抑制し、高純度にGSCを維持培養する方法を開発する。具体的には、(1)上記プロジェクトにより同定される細胞外因子とともに、(2)細胞内シグナルあるいはゲノム修飾を特異的に制御する低分子化合物の使用を試みる。一方、GSCをin vitroで分化誘導する系を開発する。そのために減数分裂特異的にGFPを発現する培養精原細胞を用いて精子形成の進行をモニターし、セルトリ細胞株をフィーダーとした培養系を作成するなど、培養条件を検討する。 ③ GSCの機能アッセイ法の開発:ほ乳類全般に応用できるGSCアッセイ法として、(1)免疫不全マウス精細管への異種移植と、(2)新生仔精巣細胞を用いた精細管再構成法による精子形成系を開発する。 ④ ヒトを含む多種ほ乳類のGSCの性質の解明と培養法の開発:細胞表面マーカーを用いてヒト、霊長類、ブタ、ウサギのGSCの濃縮を行い、培養法の開発を行う。これら濃縮GSCの遺伝子発現プロファイル解析を行う 。