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  • 小林一也

    研究概要 小林悟

    研究目的

     環境の変化や世代などに応じて無性生殖と有性生殖の2つの生殖様式を転換する動物は少なくない。特に無性生殖から有性生殖への切り替え(有性化)には、全能性あるいは多能性幹細胞から生殖器官の誘導を伴うことが多い。つまり、この有性化現象では、生殖方法が有性生殖に限定された多くの動物の場合とは異なり、必要に応じて全能性あるいは多能性幹細胞から配偶子幹細胞(GSC)/ニッチ・システムを誘導するといった独特の機構が働いていることが予想される。本研究の目的は、プラナリア有性化に伴うGSC/ニッチ・システムの誘導機構の解明である。申請者は、プラナリア有性個体に含まれる有性化因子と称する化学物質の刺激により、プラナリア無性個体に雌雄同体の生殖器官を誘導する有性化系を確立し(Kobayashi et al., Zool. Sci.,1999)、この系を用い、有性化因子の精製を進めている。現在までに、得られた精製画分から、部分的な有性化活性を持つD-トリプトプァンを同定している(未発表)。また、プラナリア全能性幹細胞(ネオブラスト)の移植系を確立するなど(Kobayashi et al., Dev. Growth Differ., 2008)、本研究を立案するに必要な基盤を確立してきた。これらの背景にくわえて、連携研究者の持つプラナリア細胞分画法やプラナリア遺伝子発現情報を駆使し、①プラナリアにおけるGSCおよびニッチ細胞の同定、②有性化に伴うGSC/ニッチ・システムの誘導過程の解析、③GSC/ニッチ・システムを誘導する有性化因子の同定を行う。系統学的にも重要な位置にいる原始的後生動物プラナリアを用いて、GSC/ニッチ・システムの誘導機構を明らかにすることは、後生動物におけるGSC/ニッチ・システムの共通性を紐解く手がかりになると期待できる。また、本研究で明らかとなる有性化因子には、後生動物におけるGSC/ニッチ・システムの共通性を生化学的視点から解明していくためのブレイクスルーとなる可能性がある。



    研究内容

    ①プラナリアにおけるGSCおよびニッチ細胞の同定:有性化系を用いて基礎的な組織学的研究を行い、プラナリア生殖腺の分化過程を詳細に示す。次に、他の計画研究代表者の協力のもと、ショウジョウバエのGSC/ニッチ細胞に発現する遺伝子情報をもとに、プラナリアにおける相同遺伝子を単離し、GSCとニッチ細胞を同定する。この時、連携研究者の阿形博士の所有するESTデータベースを利用する。また、セル・ソーターを用いたプラナリア細胞の分画法によりGSC/ニッチ細胞を単離し、マイクロアレイを利用して、プラナリアGSC/ニッチ細胞に発現する新規遺伝子を単離する。単離した遺伝子は、RNAi法により機能解析を行う。 ②有性化に伴うGSC/ニッチ・システムの誘導過程の解析:蛍光タンパク質(CFP)発現ベクターを用いたプラナリア細胞標識法を確立したのちに、標識したネオブラストの有性化過程中の挙動を調査して、GSC/ニッチ・システムの誘導過程を解析する。 ③GSC/ニッチ・システムを誘導する有性化因子の同定:無性個体を完全に有性化させる活性を持つ精製画分の主成分としてトリプトファンが同定された。さらに、非天然型と考えられてきたD-トリプトファンが、L型の数万倍もの有性化活性を持つことも明らかとなっている。しかし、D-トリプトファンは完全な有性化は引き起こせないことから、D-トリプトファン類似体が有性化因子と考えている。そこで、精製画分に含まれるD-トリプトファンの類似体を明らかにし、その有性化能を検定する。また、D-トリプトファンやその類似体により活性化される遺伝子を同定・解析することも試みる。