《 基礎生物学研究所要覧 》

統合バイオサイエンスセンター
生命環境研究領域II

DEPARTMENT OF BIOENVIRONMENTAL RESEARCH II

1.「葉」の研究から植物を理解する

 私たちは<葉の形態形成>をキーワードとして,<植物>を理解しようと試みている。

 第1に葉は,植物の最も重要な器官である。花弁,雄しべ,雌しべ,すべて葉の変形した器官である。したがって,葉の形態形成の仕組みを明らかにすることができれば,植物の地上部におけるかたち作りの仕組みは,大部分を理解できることになる。第2に,光合成の場である葉は,光など環境シグナルの受容部位であるため,環境適応や可塑性が著しい。したがって葉の制御機構を解明することは,植物の環境適応戦略の理解,あるいは植物のかたちの多様性形成機構の解明にも必須である。

 そこで私たちはアラビドプシス(シロイヌナズナ,Arabidopsis thaliana (L.) Heynh.)をモデル植物に,この問題の解明をめざしている。これが本研究室の大きな柱に相当する。さらに,葉形に関する基本的な制御系遺伝子が単離できれば,それらは植物形態の多様性の遺伝子的背景を理解する上でも,有力な手がかりとなる。そこで,環境適応による葉の形態進化の背景を探ろうという試みも行なっている。これまでに,寒冷地適応型の温室植物、セーター植物の苞葉の特性について,また葉とシュートとの中間型を取る植物について,その進化の背景を解析してきた。

2.葉の縦横を制御する遺伝子

 これまでの発生遺伝学的解析の結果,世界に先駆け,アラビドプシスよりROT3ANAS1AS2CLF遺伝子等,葉形態形成の鍵となる遺伝制御過程の同定に成功してきた。その中でも,アラビドプシスの葉の全形が,縦方向と横方向との二方向独立に制御を受けている,という事実を明らかにした業績は,世界的に高く評価されており,海外の教科書にも引用されている。この制御は,ROT3AN両遺伝子による細胞1つ1つの極性伸長を通 じて行なわれていることが判明している。さらに分子遺伝学的解析により,それら葉の発生・アイデンティティーを司る遺伝子群を実際に単離・その機能を解明してきた(図)。

Fig. 1

図1. シロイヌナズナ葉形を制御する遺伝子群

総説

  1. Tsukaya, H.(2002) "Leaf Development" In:The Arabidopsis Book, eds.C.R. Somerville and E.M. Meyerowitz, AmericanSociety of Plant Biologists, Rockville, MD.
    http://www.aspb.org/downloads/arabidopsis/tsukayafinal.pdf

参考文献

  1. Kim, G.-T., Shoda,K., Tsuge, T., Cho, K.-H., Uchimiya, H., Yokoyama, R., Nishitani, K. andTsukaya, H. (2002) The ANGUSTIFOLIA gene of Arabidopsis, a plant CtBP gene, regulatesleaf-cell expansion, the arrangement of cortical microtubules in leaf cells andexpression of a gene involved in cell-wall formation. EMBO J.21,1267-1279.
  2. Semiarti, E., Ueno, Y.,Tsukaya, H., Iwakawa H., Machida C. and Machida, Y. (2001) The ASYMMETRICLEAVES2 geneof Arabidopsis thalianaregulates formation of symmetric lamina, establishment of venation andrepression of meristem-related homeobox genes in leaves. Development128, 1771-1783.
  3. Kim, G.-T., Tsukaya, H.,Saito, Y. and Uchimiya, H. (1999) Changes in the Shapes of Leaves and Flowersupon Overexpression of the novel cytochrome P450 in Arabidopsis. Proc. Natl. Acad. Sci.USA. 99, 9433-9437.
  4. Kim, G.-T., Tsukaya, H. andUchimiya, H. (1998) The ROTUNDIFOLIA3 gene of Arabidopsis thalianaencodes a new member of thecytochrome P450 family that is required for the regulated polar elongation ofleaf cells.Genes Dev.12,2381-2391.

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