《 基礎生物学研究所要覧 》

制御機構研究系
行動制御研究部門(客員研究部門)

DIVISION OF BEHAVIOR AND NEUROBIOLOGY


 脳の構成素子である神経細胞は長く軸索を伸ばして別の神経細胞とシナプス結合を作ることにより神経回路を形成する。脳神経系では膨大な数の神経回路が正確に秩序だったネットワークを構築し,これが様々な脳機能の発現を可能にしている。複雑な神経回路がどのように形成されるのかという問題は発生生物学的観点からも興味深く,完成した脳の機能解明にとっても重要な示唆を与えるものである。当研究部門では神経回路形成の仕組みの解明を目指し,軸索誘導機構と神経細胞の移動機構に焦点を当てて研究を進めている。

1.軸索の誘導機構

 発生期の神経細胞の軸索の先端には,成長円錐と呼ばれる特殊化した構造が認められる。成長円錐は環境に存在する様々なキューに応答して自らの移動方向を決定し,正しい経路を選択して軸索を標的領域まで導く。成長円錐を誘導するキューは成長円錐の応答性により誘引性と反発性に,また,作動する距離により短距離作動性および長距離作動性の2種類に分けられる。その中で長距離作動性キューは,分泌性の誘引分子あるいは反発分子を介し,発生源から遠く離れた広範囲の領域で作用し,軸索を誘引あるいは反発するものである。当部門では,拡散性の誘引・反発分子が神経回路形成に果たす役割について研究を行っている。これまでに我々は神経管の腹側正中線のフロアプレートを始めとする正中線に存在する構造が誘引・反発分子を分泌し,神経回路形成に重要であることを明らかにしてきている。

2.神経細胞の移動機構

 神経細胞はしばしば生まれた場所から最終的な位置まで移動することが知られている。脊椎動物では神経細胞の移動は放射軸に沿う移動と接線方向に沿う移動の2種類に分けられる。当部門では大脳皮質細胞の脳室帯から脳表面への放射軸に沿った移動,および,前小脳核神経細胞の後脳最背側部からフロアプレートへの接線軸に沿った移動をモデル系として選び,2種類の神経細胞の移動機構の解明を目指している。このために,多孔質膜上で脳切片あるいは脳展開標本を培養して細胞移動をin vitroで再現できる系を確立し,さらには,Green Fluorescent Protein (GFP)を導入して神経細胞細胞移動をリアルタイムで可視化する技術を確立しようとしている。

参考文献

  1. Shirasaki, R., Tamada, A.,Katsumata, R. and Murakami, F. (1995) Guidance ofcerebellofugal axons in the rat embryo: Directed growth toward the floor plateand subsequent elongation along the longitudinal axis. Neuron14, 961-972.
  2. Tamada, A., Shirasaki, R., andMurakami, F. (1995) Floor plate chemoattracts crossedaxons and chemorepels uncrossed axons in the vertebrate brain. Neuron14, 1083-1093.
  3. Shirasaki, R., Katsumata, R.and Murakami, F. (1998) Change in chemoattractant responsiveness of developingaxons at intermediate target. Science279, 105-107.
  4. Nakamura, S., Ito, Y.,Shirasaki, R. and Murakami, F. (2000) Local directional cues control growthpolarity of dopaminergic axons along the rostrocaudal axis. J. Neurosci20, 4112-4119.
  5. Tashiro,Y., Miyahara, M., Shirasaki, R., Okabe, M., Heizmann CW., and Murakami F. (2001)Local non-permissive and oriented permissive cues guide vestibular axons to thecerebellum. Development128,973-981.
図

大脳皮質スライス中を移動する神経細胞

脳室帯にGFPcDNAをエレクトロポレーション法により導入後,スライスを作成して培養した。点線はスライスの外縁部を示す。GFP標識細胞が脳室帯(下)から表層(上)に向かって放射状に移動していた。(挿入図)移動中の細胞の拡大図。


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