植物は光の存在なくしては生活できない。太陽のエネルギーを利用し有機物を生産する光合成は広く知られているが,大地に根をはり動けない植物にとって,光は季節変化や昼夜の変化,生育環境の変化など,自分を取りまく環境の変化を知る手だてとしても重要である。環境情報としての光は,一般的に光合成のような高いエネルギーは必要ではなく,短時間の弱い光でも十分な場合が多い。種子植物では今までにフィトクロム,クリプトクロム,フォトトロピンの3系統の光受容体が明らかにされ,突然変異体を使用しての解析も進んでいるが,その作用機作はあまり分かっていない。当研究部門では,シロイヌナズナやシダ植物を主な実験材料として,環境情報としての光に対する植物の応答機構を分子レベルで解明することを目指している。当面の目標は葉緑体光定位運動の情報伝達機構を遺伝子レベルで解明することである。
1. 葉緑体光定位運動における情報伝達機構の解析
葉緑体光定位運動は,光合成を効率よく行うために藻類から種子植物までが共通して保有する重要な生理現象であり,わずかな例外を除き青色光で誘導される。しかし現在までのところ分子レベルでの解析はほとんど行われていない。最近我々はシロイヌナズナの青色光受容体がフォトトロピンとそのホモログであることを突然変異体の解析から明らかにした。現在は情報伝達過程に働いている遺伝子とその作用機作の解明を目指している。一方シダ配偶体では青色光、赤色光ともに葉緑体光定位運動を誘導することが知られていたが,赤色光受容体はフィトクロムとフォトトロピンの融合したキメラタンパク質phytochrome3であること,青色光による逃避反応の受容体はシロイヌナズナ同様にphot2であることが分かった。現在情報伝達経路に関する細胞レベルの解析を行っている。
2.葉緑体光定位の意義
葉緑体光定位運動の弱光反応は光合成を効率よく行うため,強光反応は葉緑体の光障害を避けるための反応と考えられてきたが,証明はされていなかった。我々は強光反応が起きない突然変異体2系統を使用して,強光照射による影響を調べた。その結果、変異株では光化学系IIがより障害を受けやすく,その後葉の枯死が起こること(図1)が分かった。今後は弱光反応の意義を調べる。
参考文献
- Kinoshita,T., M. Doi, N. Suetsugu, T. Kagawa, M. Wada and K. Shimazaki (2001) phot1 andphot2 mediate blue light regulation of stomatal opening. Nature414, 656-660.
- Schultz,T.F., T. Kiyosue, M. Yanovsky, M. Wada and S.A. Kay (2001) A role for LKP2 inthe circadian clock of Arabidopsis. Plant Cell13, 2659-2670.
- Imaizumi,T., A. Kadota, M. Hasebe and M. Wada (2002) Cryptochrome light signals controldevelopment to suppress auxin sensitivity in the moss Physcomitrella patens. Plant Cell14, 373-386.
- Kagawa, T.and M. Wada (2002) Blue light-induced chloroplast relocation. Plant CellPhysiol. 43, 367-371.
- Wada, M.and T. Kagawa (2001) Light-controlled chloroplast movement In: ESPComprehensive Series in Photoscience vol. 1. Photomovement. Ed. by D-P. Haederand M. Lebert, Elsevier Science Publishers, pp. 897-924.
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図1. シロイヌナズナの野生型(A, C)とphot2突然変異体(B, D)に白色強光(1400 μ mol m-2 s-1)を22時間連続照射した(C, D)。A, Bは強光照射前の対照。強光障害の状況が明らかに見られる。
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