《 基礎生物学研究所要覧 》

発生生物学研究系
個別研究2

ASSOCIATE PROFESSOR OF DIRECTOR

 タンパク質のS-パルミトイル化が動物の発生を制御するメカニズムを解析している。S-パルミトイル化はG タンパク質などが受ける化学修飾のひとつであり,この修飾が情報伝達の制御に重要な役割をしている。カイコの胚発生の機構解析で,p260/270という蛋白質が特定の細胞組織で多量に発現されることを明らかにした。この蛋白質は,パルミチン酸を転移するS-パルミトイル化酵素である。

 マウスの胚でp260/270のホモログが発現されることやこのタンパク質が脂肪酸合成酵素であることを明らかにした。脂肪酸合成酵素は,マウスの胚の脳や脊髄,及び神経節などで発現され,それらの神経系の神経細胞で多量に発現されていた。この時期の神経細胞の突起伸長にはGrowth Associated Protein 43 (GAP-43)が関与しているが,GAP-43のS-パルミトイル化が突起伸長の制御をしていることがわかっている。脂肪酸合成酵素が直接GAP-43のS-パルミトイル化を行うことやこの酵素の阻害剤が神経突起伸長を抑制することから,この酵素がS-パルミトイル化を行うことで神経突起伸長を制御していると考えている。今後も脂肪酸合成酵素によるS-パルミトイル化の発生の制御機構を解析する計画である。

参考文献

  1. Ueno, K. and Suzuki, Y.(1997) p260/270 expressed in embryonic abdominal leg cells of Bombyx mori cantransfer palmitate to peptides. J. Biol. Chem. 272, 13519-13526.
  2. Ueno, K. (2000)Involvement of fatty acid synthasein axonal development in mouse embryos. Genes Cells5, 859-869.
Fig. 1

図1. マウスの胚(受精後11日)のin situ hybridization

脂肪酸合成酵素のmRNA(紫色に染色されている)は前脳(fb)や後脳(hb)などの中枢神経系やcranial ganglia (gV, gVII/VIII, gIX/X)などの末梢神経系で多量に発現されていた。


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