《 基礎生物学研究所要覧 》
発生生物学研究系
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DIVISION OF DEVELOPMENTAL BIOLOGY |
1.脳の構造の解析特定の細胞群をラベルする分子マーカーを効率的に作成できるGAL4エンハンサートラップ系統を利用してクラゲ緑色蛍光タンパクGFPを発現させ,4000を越える系統について幼虫と成虫の脳内における発現パターンをスクリーニングした。神経に比べ数が少ないグリアについては,胚神経系のほぼ全ての細胞細胞の同定と分類を終えており,学習・記憶に重要な脳領域である成虫キノコ体の入出力線維群の解析も終了した。現在は視覚系,嗅覚系,聴覚系に関して一次感覚野の詳細な内部構造の解析や,一次感覚野と高次処理領域を結ぶ投射神経の体系的な同定作業を進め,脳の感覚情報処理に必要な神経回路の構造に関する知見を蓄積している。 2.脳の機能の解析神経回路の機能を知るためには,単に神経細胞の投射パターンを形態的に知るだけでなく、その神経の信号が次の神経を興奮させるのか,抑制させるのかという信号の向きを知ることも欠かせない。そこでゲノムプロジェクトで同定された膨大な遺伝子データベースを利用して,大量の遺伝子についてのin situハイブリダイゼーションとGAL4エンハンサートラップ系統との二重染色を組み合わせ,どの神経細胞がどの伝達物質を放出し,どの伝達物質を受容するかのマップ作業を進めている。 また,シナプス小胞の形成を阻害してシナプス情報伝達を遮断するshibirets 遺伝子をGAL4系統を利用して脳の特定の細胞群のみで発現させ,光源定位行動への影響を調べたり,性別決定遺伝子transformerを発現させてオスの脳の一部のみをメス化し,求愛行動への影響を調べることで,脳の領域と機能分担の相関を解析している。 3.脳の発生の解析脳の細胞集団は,神経幹細胞ごとのクローン子孫の単位に区分できる。我々は新しい幹細胞ラベル法を実用化して,成虫脳のクローン単位の30%以上を追跡した。その結果クローンの多くが限られた種類の回路のみを形成していること,言い換えれば脳のかなりの部分が,細胞系譜に依存した神経回路モジュールの組み合わせで構成されていることを見いだした。細胞間相互作用と,グリア細胞による細胞間の物理的障壁構造の観点から,このようなモジュール的回路構造が出来る過程の解析を進めている。 また,この解析に不可欠な神経線維束内の各線維の形成順序を可視化するため,改良型サンゴ赤色蛍光色素DsRed (S197Y) とGFPを組み合わせて特定の神経だけで発現させる系を作成した。タンパク産生後数時間で緑の蛍光を発するGFPに対し,DsRedは数十時間しないと赤の蛍光を発しないという時間差を利用して,GAL4発現が始まったばかりの神経と古い神経を染め分けられるようになった。 4.コミュニティーへの貢献インターネットを利用して,日本各地に散在するショウジョウバエ研究者が最先端の研究情報を共有できる研究支援データベース/メーリングリスト“Jfly”を,また米独の研究者と協力して昆虫脳神経系の膨大な画像データを効率よく提供するデータベース“Flybrain”を,構築・運営している。 参考文献・データベース
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