《 基礎生物学研究所要覧 》

発生生物学研究系
個別研究1

ASSOCIATE PROFESSOR OF DIRECTOR


 チョウ・ガなどの成虫の翅では,蛹の翅は成虫の翅の輪郭とは異なる形状を持っている場合が多い。Süffert (1929)は,蛹の翅の辺縁部に一本の境界線ができ,その外側の領域が急速に消失することによって,成虫の翅の輪郭ができあがることを報告した。この過程を形態学的に再検討するとともに,その周辺のメカニズムを調べている。

 モンシロチョウを用いた研究により,鱗翅目昆虫の翅においても,脊椎動物の指の形成過程で知られるアポトーシスと類似の現象がっていることが示され,この細胞死が形態形成の重要なメカニズムになっていることが分かった。また,退化の時期の前後で,翅の背腹上皮間の接着が強くなり,この結果,退化域での顆粒細胞による貪食が効率よく行われていることがわかった。

 終令幼虫から蛹をへて成虫にいたる過程で,翅には気管およびトラキオール(毛細気管)が何度も進入して,空気供給をおこなうとともに,翅脈の配列や斑紋パターンを形作る因子として作用しているらしい。トラキオールの配列と鱗粉列に注目して,光顕・電顕を併用して詳細に観察している。このような研究は,翅脈依存性の斑紋パターンのなりたちを研究する基礎としても重要である。

参考文献

  1. Kodama, R.,Yoshida, A. and Mitsui, T. (1995) Programmed cell death at the periphery of thepupal wing of the butterfly, Pieris rapae. Roux. Arch. Dev. Biol.20, 418-426.
  2. Yoshida, A., Arita, Y.,Sakamaki, Y., Watanabe, K. and Kodama, R. (1998) Ann Entomol. Soc. Am.91, 892-857.
Fig. 1

図1. 透過電子顕微鏡による,前蛹の翅の内部の観察 左側の第一次気管からトラキオール(右側)が伸び出している様子を示す。トラキオールは一個の細胞の細胞質に含まれている。


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