《 基礎生物学研究所要覧 》

はじめに

INTRODUCTION


所長写真 基礎生物学研究所は、大学共同利用機関のひとつです。「基礎生物学に関する総合研究」を設置目的として、昭和52年(1977年)に創設されました。創設当初は生理学研究所とともに、生物科学総合研究機構を形成していましたが、昭和56年には、分子科学研究所とともに、岡崎国立共同研究機構の研究所群の一つとなりました。

 大学共同利用機関は現在18研究所存在しますが、我が国の研究所としての位 置づけにはそれぞれ個性が認められてきました(学術審議会昭和48年「学術振興に関する当面 の基本的施策について」)。

  1. 特定目的研究所
  2. 大規模施設・設備を中心とする研究所
  3. 高等研究所と言うべきもの
  4. 総合研究所と言うべきもの

 以上の位置づけは、大学付置研究所を含めてのものですが、大学共同利用機関は、個別 大学では困難な研究を全国の大学研究者コミュニティに依拠して行うものとされています。

 四半世紀前までは、生物学は生物現象の記載的、記述的学問が主流でしたが、物質科学的解析の道も大きく開かれつつありました。そこで、動物学、植物学および分子生物学者を集めた世界に例を見ない研究所が作られました。

 現在の基礎生物学研究所の組織は、細胞生物学、発生生物学、制御機構の3研究系と、形質統御実験施設、培養育成研究施設、形質転換研究施設、情報生物学研究センターの4施設(センター)および技術課から成り立っています。

 また、E地区に展開されている統合バイオサイエンスセンターには、基礎生物学研究所を兼務する4人(うち客員1)の教授と2人の助教授が配置されています。岡崎国立共同研究機構内に存在する、分子科学研究所、生理学研究所との共通 施設として、アイソトープ実験センター、動物実験センター、計算科学研究センターがE地区に展開しています。さらに、E地区の今後の建物の完成に伴う移動に関しては、3研究所間の相互の理解と協力が充分になされなければなりません。

 実験科学に於いては、技術の重要性は測りしれませんが、技術を実施するのは機械ではなく、それを自在に操作できる技術者であります。とかく我が国は、合理化と称して機械を据けば自動的に目的の実験対象を測定が出来るものと勘違いした行政的な人員配置がなされがちです。そのような背景から、技術課は定員削減にあってしまい、細りがちですが、本当はもっと太くすべきものです。技術課と事務部とについては、真の支援活動として評価のランクを研究活動への貢献度としてみる必要があると考えています。その他の人の異動や、研究活動については、本要覧の中身をお読み下さい。

 さて、「新しい「国立大学法人」像について」が文部科学大臣に提出され、いよいよ、国立大学が、運営組織における教学と経営の分離、中期目標・計画における各大学の自主性・自律性の尊重、学長選考への評議会の参加、非公務員型など、これまでとは大きく異なる制度に変わることが明らかとなりました。

 大学共同利用機関は、学術研究機関として、大学とともに今後も協力して進むべきだと考えられます。我が国が目標とする「知的存在感のある国」も、「科学技術創造立国」も、学術研究の我が国の水準が世界的に見て高いことが、目標実現の前提になるに違いありません。基礎生物学研究所に働く私たちは、生物学者コミュニティの支持を得て、自由な高い志の実現を托されているのです。

 研究に於いて、最も重要なことは「創造的であること」です。基礎生物学研究所では、この24年間に多くの創造的研究が行われ、また、共同研究が国内外に展開され、さらに、原著論文の高い引用率や、文部科学省の科学研究費補助金の高い獲得件数など、客観的な指数でも評価されてきました。これらの指数が語っていることは、ほんの一部に過ぎません。レベルの高い岡崎コンファレンスを実施することによって、先導的に研究を進めるという大学共同利用機関の最も重要な役割をも果 たしてきたと自負するものです。

 一方、我が国の不況は深刻であり、そのための開発研究や応用的な研究の推進が国を挙げて語られる状況にあります。しかし、どのような開発も、必ず普遍性の高い原理に基づいているのですから、その原理の発見の場である基礎生物学研究所こそ、最も重要であることを、益々、事実として知らせる任務があります。それには、世界をリードし、生物学に新しい視点を導入するような研究成果 を目指して、研究に邁進しなければなりません。

 生物学の研究は、速度を競ったり、大きさを競ったりすることが目的ではありません。時に必要なこともありますが、常日頃は、静かに、落ち着いて、深く考えること、また、お互いに協力して実験をし、寝食を忘れて徹底した討論をし、そして現象の本質を洞察することに尽きるのです。

 最後に、自らに課された目的の実現を見失うことのないよう、外部評価と自己点検を怠ることなく、生物学研究の中核としての責務を果 たしたいと思います。

基礎生物学研究所長   勝 木 元 也


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