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大学共同利用機関法人 自然科学研究機構

基礎生物学研究所

研究部門・施設

構造多様性研究室

研究教育職員

児玉 隆治
准教授
児玉 隆治
KODAMA, Ryuji

研究の概要

多様な形の奥にある仕組み
 

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複雑な曲線を描くチョウのハネの輪郭


チョウの翅は、単層上皮の袋が封筒のようにたたまれたものであり、幾何学的構造および構成細胞の種類のシンプルさゆえに、形態形成過程を考えるのに適した材料である。この系を使って、成虫翅の輪郭形成過程および、その周辺のメカニズムを調べている。
 
鱗翅目昆虫(チョウやガ)の翅は、幼虫期に成虫原基の形で準備されているものが、蛹の期間に大きく面積を拡大するとともに、その輪郭の形も変化して成虫の翅として完成する。たとえばアゲハチョウの尾状突起も、このようにして蛹の期間に形作られる。この輪郭の変化が、脊椎動物の指の形成過程で知られるアポトーシス(プログラムされた細胞死)と類似のしくみによって引き起こされていることを既に報告した。すなわち、蛹の翅の周縁部に境界線ができ、その外側が急速に細胞死を起こす一方、内側が鱗粉形成などの分化をして、成虫の翅が完成するのである。

アポトーシスをおこした細胞は、翅を作っている 2 枚の細胞シート(上皮)の隙間にいるマクロファージによって速やかに貪食・除去される。その後分かったところでは、細胞死の時期の前後で、境界線の内側でだけ翅の 2 枚の上皮間の接着が強くなってマクロファージが入り込めなくなり、その結果、細胞死を起こす部分にマクロファージが濃縮されて、死んだ細胞の貪食が効率よく行われるようになっているらしい。

小型の蛾において、翅自体の大きさに比較して同等以上の面積を、翅周辺から伸びる長い毛のような形の鱗粉(辺縁毛)が占めている例がある。一例としてジャガイモキバガを取り上げ、辺縁毛の構造や翅の動きを解析したところ、辺縁毛はこれまで報告されていない分岐構造を持っていること、及び、辺縁毛同士が絡み合って平面状の不織布のような構造となり、軽量でしなやかな翅のように挙動することが分かった。コンパクトに収納できる翅で、大きな翅と同様の空力学的効果をもたらすという適応と考えられる。

このほかに、光学顕微鏡・電子顕微鏡などの経験を生かして、所内の部門等と共同研究を行っている。アイソトープ実験センター及び研究力強化戦略室を兼任しているため、主にこのような共同研究の形で研究所の研究活動に寄与していきたいと考えている。
 

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図 1. ジャガイモキバガの辺縁毛の走査型電子顕微鏡観察像
翅の中心部の鱗粉(上端)と全く形態の違う辺縁毛が翅周辺部から長く伸びている。辺縁毛は途中で2分岐を繰り返す形態を示し、辺縁毛同士が密に絡み合って平面として挙動する。図では多くの辺縁毛を除去して、個々の形態がわかりやすくしてある。

研究室関連資料

参考文献

Yoshida, A., and Kato, Y. (2019). Morphology and development of the short wing in the seasonal dimorphism of the tussock moth, Orgyia thyellina (Lepidoptera: Lymantriidae): comparison with the long wing. Appl. Entomol. Zool. 54, 47-54.
 
Yoshida, A., Tejima, S., Sakuma, M., Sakamaki, Y., and Kodama, R. (2017). Coherent array of branched filamentary scales along the wing margin of a small moth. Sci. Nat. 104, 27.

連絡先

児玉 隆治 准教授 E-mail: kodama@nibb.ac.jp TEL: 0564-55-7578