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大学共同利用機関法人 自然科学研究機構

基礎生物学研究所

研究部門・施設

生殖細胞研究部門

研究教育職員

吉田 松生
教授
吉田 松生
YOSHIDA, Shosei
北舘 祐
助教
北舘 祐
KITADATE, Yu
中川 俊徳
助教
中川 俊徳
NAKAGAWA, Toshinori

研究の概要

世代をつなぐ精子幹細胞の謎
 

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マウス精巣と精子形成のさまざまなイメージ。
(左)精細管の立体再構成像。緑色の未分化型精原細胞は、血管(赤色)の付近に偏っている。
(右上)分化に向かった未分化型精原細胞の染色像(茶色)。
(右中)精子幹細胞が動き回りながら自己複製因子(FGF)をお互いに奪い合う、という概念図。
(右下)精細管の免疫染色像。異なる色に染まる様々な分化段階の細胞が入り混じっている。
図は文献 1、3、7より許諾を得て転載。

われわれほ乳類を含む多くの動物では、長期間にわたって多数の精子を生み出し、確実に子孫を残す。一方、一つ一つの精子は、遺伝情報を正しく複製して次世代に伝える。この、一見相反する、しかし生命にとって本質的に重要な、高い生産性と正確性はいかに実現されているのか ? 生殖細胞研究部門では、マウス精子幹細胞の実体と挙動を解明して、この謎に挑戦する。
 

精子幹細胞とは何か?

精巣で作られる精子は次の世代に命を伝える。それを支える「精子幹細胞」は、自己複製と分化の絶妙なバランスをとり、精子が枯渇することも、未分化細胞が溜ることもなく、一生にわたって精子を作り続ける。では、精巣の中で、どの細胞が「幹細胞」で、どこで、どのように挙動(増殖、自己複製、分化、脱分化、死)しているのであろうか ?

1950 年代から 1970 年代にかけて、ほ乳類の精子形成の形態学的な基盤が確立された。現在われわれは、ライブイメージングやパルス標識といった、当時は不可能だった手法によって時間スケールを導入し、細胞の挙動を知ることが出来る。これらの定量的データを数理統計学的に解析することによって、一見複雑な幹細胞の挙動を生み出す、実にシンプルな原理が明らかになってきた。
 

幹細胞は形の異なる状態を行き来する

従来、幹細胞は一つ一つバラバラの「As 細胞」だけだと考えられてきた。我々は、As 細胞とともに2つ以上の細胞がつながった「合胞体」も幹細胞として働くことを見出し、幹細胞はこれらの状態を行き来するモデルを提唱している(文献 4)。
 

分化に向かった細胞が逆戻り

幹細胞は、分化に向かうと二度と自己複製しないと考えられてきた。我々は、ある分化段階までは自己複製する潜在能力を維持し、組織が障害を受けると高い頻度で幹細胞に戻ることを発見した(文献 6、8)。
 

幹細胞の運命はバラバラ

幹細胞は、非対称分裂によって自己複製する娘細胞と分化する娘細胞を生むと考えられてきた。我々は、精子幹細胞一つ一つはバラバラの運命を辿りながら、集団として自己複製と分化のバランスを完璧にとることを発見した(文献 4)。
 

動き回る幹細胞と「開かれたニッチ」

幹細胞は、特定のニッチ領域で自己複製シグナルを受ける例が多く知られている。我々は、精巣にはこのような領域がなく、幹細胞は血管の近くに偏りながらも、分化細胞の間に散らばって活発に動き回っていることを発見した(文献 3、 4、7)。
 

幹細胞は自己複製因子を競合する

のような「開かれた」ニッチで、幹細胞の数を一定に保つメカニズムは不明であった。我々は、幹細胞が限られた量の自己複製因子(FGF)をお互いに奪い合うことで、自己複製と分化のバランスをとることを発見した(文献 1)。さらに、同じように分化シグナルに晒されるにも拘わらず、分化する細胞と分化しない細胞を生じる分子メカニズムを発見した(文献2、3)。
 

幹細胞は周期的に分化する

興味深いことに、幹細胞は、8.6 日ごとに同調して分化する。しかしこのメカニズムは不明である。我々は、レチノイン酸の合成が周期的に起こることが引き金となって、この周期的分化が起こるというモデルを提唱している(文献5)。
 

幹細胞システムの全体像を理解する

以上のように我々は、様々な手法を動員して精子幹細胞の実像の理解を進めてきた。今後もそれを追い求め、次世代にゲノム情報を伝えるという生殖細胞の根源的なミッションを少しでも深く理解したい。 

共同研究利用の募集

マウスの精子形成幹細胞にフォーカスを絞り、組織形態学・遺伝子発現・ライブイメージング・遺伝学を用いて多角的に解析しています。マウス等の動物の精子形成の解析、遺伝子発現解析やライブイメージング技術を用いた共同研究を募集します。

大学院生の募集

生殖細胞は生命の本質に直結します。大学院生には、こういった問いに具体的な実験で挑戦することを通して生物学の醍醐味を味わい、自分自身の興味に従って考える力を身につけて欲しいと思っています。

Webサイト

研究室関連資料

参考文献

Kitadate, Y., Jörg, D. J., Tokue, M., Maruyama, A., Ichikawa, R., Tsuchiya, S., Segi-Nishida, E., Nakagawa T., Uchida, A., Kimura-Yoshida, C., Mizuno, S., Sugiyama, F., Azami, T., Ema, M., Noda, C., Kobayashi, S., Matsuo, I., Kanai, Y., Nagasawa, T., Sugimoto, Y., Takahashi S., Simons, B. D., and Yoshida, S. (2019). Competition for mitogens regulates spermatogenic stem cell homeostasis in an open niche. Cell Stem Cell 24, 79-92.
 
Tokue, M., Ikami, K., Mizuno, S., Takagi, C., Miyagi, A., Takada, R., Noda, C., Kitadate, Y., Hara, K., Mizuguchi, H., Sato, T., Taketo, M. M., Sugiyama, F., Ogawa, T., Kobayashi, S., Ueno, N., Takahashi, S., Takada, S., and Yoshida, S. (2017). SHISA6 confers resistance to differentiation-promoting Wnt/beta-catenin signaling in mouse spermatogenic stem cells. Stem Cell Reports 8, 561-575.
 
Ikami, K., Tokue, M., Sugimoto, R., Noda, C., Kobayashi, S., Hara, K., and Yoshida, S. (2015). Hierarchical differentiation competence in response to retinoic acid ensures stem cell maintenance during mouse spermatogenesis. Development 142, 1582-1592.
 
Hara, K., Nakagawa, T., Enomoto, H., Suzuki, M., Yamamoto, M., Simons, B.D., and Yoshida, S. (2014). Mouse spermatogenic stem cells continually interconvert between equipotent singly isolated and syncytial states. Cell Stem Cell 14, 658-672.
 
Sugimoto, R., Nabeshima, Y., and Yoshida, S. (2012). Retinoic acid metabolism links the periodical differentiation of germ cells with the cycle of Sertoli cells in mouse seminiferous epithelium. Mech. Dev. 128, 610-624.
 
Nakagawa, T., Sharma, M., Nabeshima, Y., Braun, R.E., and Yoshida, S. (2010). Functional hierarchy and reversibility within the murine spermatogenic stem cell compartment. Science 328, 62-67.
 
Yoshida, S., Sukeno, M., and Nabeshima, Y. (2007). A vasculature-associated niche for undifferentiated spermatogonia in the mouse testis. Science 317, 1722-1726.
 
Nakagawa, T., Nabeshima, Y., and Yoshida, S. (2007). Functional identification of the actual and potential stem cell compartments in mouse spermatogenesis. Dev. Cell 12, 195-206.

連絡先

吉田 松生 教授 E-mail: shosei@nibb.ac.jp TEL: 0564-59-5867

写真

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