English

大学共同利用機関法人 自然科学研究機構

基礎生物学研究所

研究部門・施設

神経細胞生物学研究室

スタッフ

Webサイト

研究の概要

mRNA - タンパク質コンデンセートが司る高次脳機能の解明
 

2020_shiina_main_visual.jpg

マウス脳(海馬)神経細胞のRNA顆粒
神経細胞の細胞体(赤)から伸びた樹状突起にRNA顆粒(緑)が輸送され、局在している。模式図(白)は神経の細胞体とそこから伸びた樹状突起。
 
mRNAは、DNAの遺伝情報をもとにタンパク質を合成するという生命の根幹に不可欠の分子である。脳神経が正しく機能するためには、mRNAを鋳型としたタンパク質合成(翻訳)が時空間的に制御されることがとりわけ重要なことが分かってきた。この制御は、mRNAとそれに結合する様々なタンパク質がRNA顆粒と呼ばれる集合体(コンデンセート)を形成することによって行われている。我々は、RNA顆粒がどのように形成されてその動態がどのように調節されるのか、さらに神経細胞における RNA顆粒の働きが、学習・記憶や精神活動などの脳機能にどのような影響を与えるのかについて、マウスをモデル生物として、分子・細胞・個体レベルで明らかにすることを目指している。

RNA顆粒の形成・ダイナミクスと神経機能

細胞内の様々な小器官は、生体膜に包まれることで区画化されている。しかし近年驚くべきことに、膜に包まれずに区画化する「コンデンセート」と呼ばれる様々な細胞小器官が明らかにされつつある。それらコンデンセートは、液-液相分離という物理化学的現象によって区画化することで形成され、特定の分子が濃縮する。RNA顆粒は液-液相分離によって細胞質に形成されるコンデンセートの一種であり、特定のRNA結合タンパク質、mRNA、リボソーム等が濃縮している。RNA結合タンパク質のうち、三次元構造をとらずにふらふらとした天然変性領域(IDR)を持つものが互いに弱く相互作用することが、液-液相分離の原動力になっている。そして形成されたRNA顆粒は単一の液相ではなく、内部に固相の「コア」を含む(図1)。このコアが神経細胞内で過剰に凝集・巨大化してしまうことが、神経変性疾患である筋萎縮性側索硬化症(ALS)や前頭側頭葉変性性認知症(FTLD)の引き金になると考えられている。我々は、IDRを介したRNA顆粒の形成および液相化・固相化といったダイナミクス調節の分子メカニズムを明らかにすると共に、学習、加齢、ストレスなどの内的・外的要因がRNA顆粒ダイナミクスを変化させる可能性について、またその変化の不具合が神経機能の異常につながる可能性について研究に取り組んでいる。

2020_shiina_fig1.jpg

図1. RNA顆粒の液相、固相をそれぞれ形成するRNA結合タンパク質
培養細胞内でRNG105(赤)はRNA顆粒の液相を形成し、FUS(緑)はその内部に点状の固相(コア)を形成する。点線で囲まれた部分は核。細胞質に形成されたRNA顆粒の一部(四角)の拡大図を右側の写真に示す。上:FUS, 中:RNG105, 下:重ね合わせ。スケールバー:2 μm。
 

長期記憶形成におけるRNA顆粒の役割

神経細胞におけるRNA顆粒の重要な役割は、mRNAを樹状突起へ輸送し、樹状突起の後シナプス(スパイン)近傍の局所において、学習時のシナプス入力に伴って翻訳を引き起こすことである。この局所的翻訳がシナプス結合の長期的な強化に必要であり、数時間から数年に及ぶ長期記憶の形成に関与すると考えられている。我々はRNA顆粒の構成因子であるRNA結合タンパク質が、翻訳の時空間制御及び学習・記憶形成に果たす役割を解明することに取り組んでいる。RNG105(別名caprin1)は、樹状突起へのmRNA輸送を担うRNA結合タンパク質である。RNG105欠損マウスでは、本来樹状突起に局在すべき様々な種類のmRNAの局在が低下し、欠損が軽度の場合は自閉症様行動を引き起こし、重度の場合は長期記憶の顕著な低下を引き起こす(図2)。RNG105によって輸送されるmRNAがどのようなメカニズムで長期記憶に結びつくかは不明な点が多く、その解明は今後の重要な課題である。

2020_shiina_fig2.jpg

図2. RNG105遺伝子欠損による長期記憶の低下
マウスは暗い部屋で電流が流れる不快な経験を一度学習すると、その後電流が流れなくても暗い部屋を避けるようになる。正常マウスは1週間後も暗い部屋を避けた。一方、RNG105欠損マウスは5分後には暗い部屋を避けたものの、1週間後にはほぼ元通り暗い部屋に進入した。

大学院生の募集

本研究室では、大学院生を募集しています。

研究室関連資料

参考文献

Nakazawa, K., Shichino, Y., Iwasaki, S. and Shiina, N. (2020). Implications of RNG140 (caprin2)-mediated translational regulation in eye lens differentiation. J. Biol. Chem. 295, 15029-15044.

Ohashi, R. and Shiina, N. (2020). Cataloguing and selection of mRNAs localized to dendrites in neurons and regulated by RNA-binding proteins in RNA granules. Biomolecules 10, 167.
 
Shiina, N. (2019). Liquid- and solid-like RNA granules form through specific scaffold proteins and combine into biphasic granules. J. Biol. Chem. 294, 3532-3548.
 
Nakayama, K.†, Ohashi, R.†, Shinoda, Y., Yamazaki, M., Abe, M., Fujikawa, A., Shigenobu, S., Futatsugi, A., Noda, M., Mikoshiba, K., Furuichi, T., Sakimura, K. and Shiina, N. (†equal contribution) (2017). RNG105/caprin1, an RNA granule protein for dendritic mRNA localization, is essential for long-term memory formation. eLife 6, e29677.
 
Ohashi, R., Takao, K., Miyakawa, T. and Shiina, N. (2016). Comprehensive behavioral analysis of RNG105 (Caprin1) heterozygous mice: Reduced social interaction and attenuated response to novelty. Sci. Rep. 6, 20775.
 
Shiina, N. and Nakayama, K. (2014). RNA granule assembly and disassembly modulated by nuclear factor associated with dsRNA 2 and nuclear factor 45. J. Biol. Chem. 289, 21163-21180.
 

椎名伸之 (2012). RNA granuleによる樹状突起へのmRNA輸送と局所タンパク質合成.細胞工学 31, 655-659.

 

椎名伸之 (2009). 神経樹状突起におけるRNA粒子と翻訳制御. 蛋白質核酸酵素 54, 2171-2176.

 

椎名伸之、徳永万喜洋 (2006). 神経シナプス可塑性における局所的翻訳の制御機構. 蛋白質核酸酵素 51, 943-949

連絡先

椎名 伸之 准教授 E-mail: nshiina@nibb.ac.jp TEL: 0564-55-7620

映像

写真

神経細胞生物学研究室_写真1