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大脳皮質領野特異的に発現する遺伝子


4.研究の展望


大脳皮質の領野特異的発現パターンを示す遺伝子の網羅的解析

 先に述べたように、私達は既に霊長類の大脳皮質領野間でその発現パターンが顕著な差を示すものの凡そ6〜7割程度を分離していると考えていますが、現在、理化学研究所のゲノムサイエンスセンターの榊グループと共同で研究を行い、その網羅的な同定と解析を進めています。こうした大脳皮質領野特異的な発現パターンを示す遺伝子の網羅的解析によって、領野特異性を示す遺伝子群の特徴が明らかになり、霊長類の大脳皮質各領野の特性を決めている機構が明らかになると考えています。


大脳皮質領野特異的に発現する遺伝子の機能解析

 大脳皮質領野発現特異性を示す遺伝子の網羅的解析によって分類された遺伝子の機能を解析することによって、これらの遺伝子が大脳皮質領野の機能発現にどのような役割を果たすのかを知ることができます。大脳皮質の機能研究でまだ解決されていない問題の一つに、各領野を構成する神経細胞の特性の異同という問題があります。視覚野を構成する神経細胞にも錐体細胞、顆粒細胞、介在神経細胞等の様々な種類があり、それらが視覚情報処理をするのに各々固有の機能を果たしていることは間違いありません。聴覚野を構成する細胞にも同様の似た神経細胞の集団があります。眼や耳から入った光や音は、網膜やコルチ器にある有毛細胞で電気的信号に変換されて、各々の感覚に固有な情報処理を受けます。


 視覚野には視覚情報を解析する局所回路があり、聴覚野には聴覚情報を解析する回路があります。一つの良く分っていない問題は、これらの視覚情報を処理する回路と聴覚情報を処理する回路を構成する神経細胞の特性(性質)です。同じ素子を使って異なる働きをする回路を作ることは可能ですが、視覚野と聴覚野の神経細胞は基本的には同じ性質を持つものの集まりで、ただその回路が異なるのでしょうか?それとも、視覚野と聴覚野では異なる特性を持った神経細胞が有るのでしょうか?


 ヒトの3領野を調べた結果、領野間で発現量に3倍以上の差のあるもの(3.6倍)が1000遺伝子中1つしかなかったということは、基本的には前者の可能性が高いことを示唆しています(渡我部等、文献2)。しかし一方で、私達が始めて報告したように、少数ではあっても領野間で顕著な差があるものが存在します。これらの遺伝子は、各々の領野機能に固有な神経細胞の特性を決めている可能性があります。実際、Differntial Display法で分離された3つの遺伝子は、何らかの形で神経細胞の性質を変えるものであることが予想されます。これまで得られた大脳皮質の領野発現特異性を示す遺伝子群は、基本的に3グループ(一次視覚野、連合野、運動野)に分類することが可能と考えられますが、その多くは未だ機能が十分解析されていません。今後これらの遺伝子の機能解析によって、各領野の神経細胞の特性を決めている機構が明らかにできると考えています。


大脳皮質の進化機構の解明

  最初に述べたように、哺乳類はその遺伝子数が種間で殆ど違わないにも拘わらず、脳の大きさは体重当たりで補正しても、ヒトとげっ歯類や食虫類では200倍近くも違います。単に量的に異なるだけではなく、領野の構成や機能もかなり異なっています。哺乳類の進化において大脳皮質の進化は最も顕著であり、ヒトや霊長類の高次脳機能に固有な働きを理解する上で、こうした大脳皮質領野の進化機構を解明することは重要な貢献を果たすと考えられます。


  私達は霊長類の大脳皮質領野特異的発現を示す遺伝子を調べましたが、霊長類とげっ歯類ではその発現パターンが大きく異なります(高畑亨等、2004年北米神経科学会)。この中には、霊長類で始めて特異的発現を示す細胞種と漸進的変化を示す、少なくとも2つの型があるように見えます。その意味は今だ不明ですが、今後、哺乳類の様々な種におけるこれらの発現パターンとその調節様式をより詳しく調べることによって、大脳皮質の進化機構が分子レベルで明らかにできるのではないかと期待しています。


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