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大脳皮質領野特異的に発現する遺伝子


2.大脳皮質形成機構の論点(前成説と後成説)?


 哺乳類の大脳皮質領野形成に関しては、従来、2つの考え方があります。一つは、大脳皮質の領野の基本構造は、既に分裂層にある段階で決定されているという考え方です。今一つは、大脳皮質の領野への分化は視床からの投射が各々の領野への分化を規定するまでは決定されておらず、その投射入力によって順次決定されて行くという考え方です。


 前者(前成説)を支持する考え方としては、
(1)大脳皮質の部域特異性を示すマーカー遺伝子が幾つか報告されており、これらの遺伝子は、既に視床からの投射を受ける前に発現し、

(2)又、視床の発達に著しい阻害があり、視床からの投射を受けないノックアウトマウスの大脳皮質でも、野生株と同じ発現パターンを示します(文献4)。

 従って、少なくとも、げっ歯類では、大脳皮質の一定の部域(領野と直接対応はしない)に発現する遺伝子は、視床からの入力を受ける前にその運命が決まっていると考えられます。


 一方で後者(後成説)を支持する実験結果として、視覚野予定領域を体制感覚野予定域に移植すると体性感覚野に特徴的な構造ができるという報告や、内側膝状体(MGN)から下丘(IC)への結合線維を切断したフェレットでは、本来、聴覚野になるべき領域で視覚情報を処理することができるようになるという報告があります(文献5)。両者とも実験結果自体は、信頼性の高いものです。どのように考えたら、両者の結果を矛盾なく説明することができるのでしょうか。


 私達は、哺乳類のなかでも殊に良く大脳皮質の発達した霊長類の領野特異的に発現する遺伝子を解析することによって、この問題に迫ろうと考えています。その理由を以下に述べます。

(1)霊長類の大脳皮質は、哺乳類の中でも最も良く発達しており、げっ歯類に比べて遥かに複雑な領野が発達していること。げっ歯類の視覚野は比較的単純な構造より構成されますが、霊長類の視覚野は30以上もの副領野から成ります。こうした複雑な領野の発達と進化には霊長類固有のメカニズムがあると考えられるます。

(2)言語、思考等の高次脳機能に重要な役割を果すと考えられている連合野は、霊長類で殊に良く発達しており、ここにも霊長類固有のメカニズムがあると考えられます。


 これまでの私達の研究により、霊長類視覚野特異的に発現する遺伝子、連合野特異的に発現する遺伝子、さらに運動野特異的に発現する遺伝子を同定して報告してきました(詳細は次章参照)。このうち、視覚野特異的に発現する遺伝子occ1 (occipital 1)は、眼からの入力を一次的に遮断するとその発現が顕著に低下することが判りました。またその発現は、生後発達に強く依存します。これらの結果から、視床からの入力の前に、内在的にプログラムされた大脳皮質の形成機構があり(霊長類の場合、胎生90日頃まで)、これにより大まかな大脳皮質領域が形成され、次に視床からの投射により大脳皮質の領野がより精密に決定され、更に生後の感覚器からの環境入力情報を運ぶ電気的活動によって、成熟した大脳皮質領野が形成されると考えることができます。


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