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遺伝子発現を利用した学習行動解析


 記憶は、大きく言って認知記憶(宣言的記憶ともいい、ヒトの場合その記憶内容を叙述できる)と運動記憶(手続き記憶ともいい、その記憶内容は一般に叙述できない)に分類できます。当研究室では、各々のタイプの学習下での遺伝子発現を利用した脳内情報処理課程の研究を行っています。


視聴覚弁別課題学習下での遺伝子発現

 ラットを用いた視聴覚弁別課題は、京都大学文学部櫻井芳雄教授が独自に完成させられたものです。私達は、ここ数年来、櫻井教授との共同研究により、この行動解析システム下で、遺伝子発現を用いた研究を行って来ました。このシステムでは、視覚刺激(左右)と聴覚刺激(高低音)が一つのsessionの中で、同数回与えられるように組み合わされており、行動応答は、特定の刺激(例えば、高音:high tone)に引き続いて、3秒間doorが開いて、その間にpanelを押せば、餌(報酬)がもらえる様にラットが学習するよう訓練しています(下図参照)。


 このシステムには幾つかのすぐれたところがありますが、遺伝子発現をもちいた研究という立場からすれば、図Cに示した4つの組み合わせ刺激が正解刺激(引き続いてパネルが開く刺激)を含めて、全て1セッション中に等しく呈示され、従って感覚入力が定量的に一定に成るようにデザインされていることです。 c-Fos等の最初期遺伝子発現は種々の感覚刺激で誘導されることが知られているので、このようにして学習と結びつかない対照刺激を客観的に評価することが重要になります。


  私達は、音刺激が学習刺激となる条件下とならない条件下でのc-Fosの発現誘導を比較しました。その結果、学習条件で第一次聴覚野に有意にc-Fosの発現が誘導されることが解りました。更に2重染色法を用いて、種々の神経細胞のうちどのような種類の神経細胞にc-Fosの発現が見られるかを調べたところ、課題依存的なc-Fosの増加は興奮性細胞にのみみられることが明らかになりました。こうした情報は、従来のfMRIやPET法では得ることのできないもので、この学習課題と免疫組織化学的方法を組みあわせることによって始めて明かになったものです。現在、より高次の中枢でどのような神経細胞がこの課題と関与しているのか調べようとしているところです。


運動学習下での遺伝子発現

 運動学習(手続き学習)下での遺伝子発現を観察する為、私達は、以下のような実験システム(ホイールランニング装置)を開発しました(木津川尚史等、2000年日本神経科学・回路学会合同大会発表)。このシステムは、マウスの歩行の足場となるぺグのパターンを変化した時に起こる脳内情報処理過程をc-Fos発現を指標に解析しようとするものです。運動下では小脳や大脳皮質でもc-Fos発現を観察することができますが、ペグのパターンの変化に伴って有意にc-Fos発現が変化するのは、被殻(線状体)背側部のみでした。現在、この神経回路がどのような特徴を持つものか組織化学的方法を用いて解析しています。従来、電気生理学的手法により大脳皮質から、被殻(線状体)への神経回路は、かなり良く調べられていましたが、このように行動下でこの神経回路が調べられたことは無かったので、これまでのの知見と合わせてより統合的な新しい知見が得られる可能性があると考えて研究を進めています。

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