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2011年02月09日
てんかん発作に関わる遺伝子の同定

基礎生物学研究所の上野直人教授、理化学研究所発生再生科学総合研究センター、およびアイオワ大学医学部のBassuk博士らの研究グループは、細胞の極性(形や機能的な非対称性)を決め個体の発生にも重要な役割を担う因子のひとつPrickle(プリックル)遺伝子の変異が、てんかん発作のおこりやすさに関わることを示しました。研究グループは、Prickle遺伝子の機能が低下したマウスでは、正常マウスに比べて発作を起こしやすいことを明らかにしました。この成果は、2月11日に米国人類遺伝学会誌 The American Journal of Human Geneticsで発表されます。

[研究の背景]

てんかん発作は、年齢、性別、人種にかかわらず起こる頻度の高い神経疾患の一つです。この発作症状は神経細胞(ニューロン)の過剰な活動によって引き起こされることが知られています。また、発生機序については多種多様で、原因を特定することを難しくしていますが、多くには遺伝的背景(複数の原因遺伝子の存在)が指摘されています。Bassuk博士らは2008年に進行性ミオクローヌスてんかん(Progressive myoclonus epilepsy, PME)を発症する患者の3つの家系でPrickle遺伝子に変異があることを報告していました。研究グループは今回、Prickle遺伝子に変異があるマウス個体を作成し、Prickle遺伝子と発作との関連性を検証しました。

[本研究の成果]

研究グループは、正常なマウスと、Prickle遺伝子変異マウスとで、電気刺激によって誘発される神経発作の起こりやすさを比較しました。すると、Prickle遺伝子変異マウスでは、発作が誘発されやすいことが明らかになりました(図1)。また、薬剤を投与して発作を誘発する実験において、Prickle遺伝子変異マウスの神経活動は、正常なマウスの神経活動と比べて、神経興奮の持続時間が長いことが明らかとなりました。以上の結果から、Prickle遺伝子の機能低下は、てんかん発作のおこりやすさと関連があると結論付けました。このPrickle遺伝子変異マウスは、Prickle遺伝子の変異を伴うヒトてんかんのモデルマウスとして、発症メカニズムの解明や、治療法の開発などに活用されることが期待されます。

また、本研究ではマウスだけでなく、魚やジョウジョウバエを用いた実験においても、Prickle遺伝子の機能の低下が神経活動の異常を引き起こすことを示しました。これは、Prickle遺伝子が、幅広い生物種において、中枢神経で主要な機能を持つことを示唆するものです。

現在までに見つかっているてんかん発作に関連する遺伝子の多くがイオンチャネルを構成するタンパク質に関わるものであるのに対して、Prickleは一つ一つの細胞の極性(形や機能的な非対称性)や運動性を制御している遺伝子であることから、今回の成果は、Prickle遺伝子の変異とてんかん発作の関連だけでなく、複雑な神経細胞(ニューロン)同士のネットワークの構築とその機能の理解にもつながると期待されます。

 

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図1:電気刺激により誘発される発作の頻度を比較

[発表雑誌]

米国人類遺伝学会誌 The American Journal of Human Genetics 電子版にて米国時間2011年2月11日に発表されます。

論文タイトル:
"Mutations in Prickle Orthologs Cause Seizures in Flies, Mice, and Humans"
「Prickle遺伝子の変異はハエ、マウス、ヒトで発作を引き起こす」

著者:Hirotaka Tao, J. Robert Manak, Levi Sowers, Xue Mei, Hiroshi Kiyonari, Takaya Abe, Nader S. Dahdaleh, Tian Yang, Shu Wu, Shan Chen, Mark H. Fox, Christina Gurnett, Thomas Montine, Thomas Bird, Lisa G. Shaffer, Jill A. Rosenfeld, Juliann McConnell, Suneeta Madan-Khetarpal, Elizabeth Berry-Kravis, Hilary Griesbach, Russell P. Saneto, Matthew P. Scott, Dragana Antic, Jordan Reed, Riley Boland, Hatem El-Shanti, Vinit B. Mahajan, Polly J. Ferguson, Jeffrey D. Axelrod, Anna-Elina Lehesjoki, Bernd Fritzsch, Diane C. Slusarski, John Wemmie, Naoto Ueno, Alexander G. Bassuk

[研究グループ]

本研究は基礎生物学研究所の上野直人教授、田尾嘉誉研究員(現理化学研究所)、理化学研究所発生再生科学総合センター動物資源開発室、およびアイオワ大学カーバー記念医学部の Alexander G. Bassuk博士らによる研究グループによって行われました。

[研究サポート]

本研究の一部は、文部科学省科学研究費補助金を受けて行われました。

[本件に関するお問い合わせ先]

基礎生物学研究所 形態形成研究部門
教授 上野 直人(ウエノ ナオト)
TEL: 0564-55-7570(研究室)
E-mail: nueno@nibb.ac.jp

[報道担当]

基礎生物学研究所 広報国際連携室
倉田 智子
Tel: 0564-55-7628
Fax: 0564-55-7597
E-mail: press@nibb.ac.jp