植物は、気孔と呼ばれる微小な開口部を介して水の蒸散を行ったり、光合成に必要な二酸化炭素を大気から吸収します。このように植物の生存を左右する気孔の開閉は、光環境や乾燥が関与する非常に複雑なメカニズムで制御されており、植物生理学の重要な研究課題の一つです。今回土井らは、シダ植物をもちいて光による気孔開口の制御のしくみを研究しました。種子植物ではフォトトロピンという色素蛋白質が気孔開口のための光受容体であることが既に知られていますが、シダ植物の場合はこれと異なり、光合成色素であるクロロフィル(葉緑素)が気孔開口のための光受容体としても働いていることが判明しました。気孔とその開口機構の進化を考察するうえで重要な発見です。本研究は九州大学理学部と基礎生物学研究所との共同研究として実施され、研究の詳細は、Plant Cell Physiology誌 2006年6月号に掲載されました。
[考察]
気孔は植物の進化の過程で作られたが、その開口メカニズムは多様であるらしい。コケの胞子を作る「サク」の表面には気孔があるが、開閉機能がなく、開きっぱなしの単なる空気孔であると言われている。シダ植物になってはじめて開閉機構を確保し、その結果地上でも背の高い植物体へ成長することができる様になったと考えられる。本研究で明らかになったように、シダでは気孔の形態、開閉機構、光受容体は種子植物と同じものを備えていながら、光受容体はフォトトロピンではなく葉緑素を使っていることが明らかになった。本研究の結果は、気孔開口のメカニズムが植物の進化の過程でどのように形成されてきたかを理解するうえで、貴重な発見である。
(注)
フォトトロピン: 植物独自の青色光受容体で、発色団であるフラビンモノヌクレオチドが光を吸収する。1997年に米国のW.R. Briggs教授らが光屈性の光受容体として発見した。種子植物のシロイヌナズナではphot1とphot2の二種があり、光屈性、葉緑体運動、気孔開口、葉の伸展など光合成活性を効率化する現象の光受容体である (Takemiya et al, Plant Cell 17:1120-1127, 2005)。
[発表雑誌]
Plant Cell Physiology 2006年6月号
論文タイトル: Fern Adiantum capillus-veneris lacks stomatal responses to blue light.
著者: Michio Doi, Masamitsu Wada and Ken-ichiro Shimazaki
[研究グループ]
本研究は九州大学大学院 理学研究院(土井、島崎)と自然科学研究機構 基礎生物学研究所(和田)との共同研究として実施された。
[報道解禁日]
2006年6月末
[本件に関するお問い合わせ先]
九州大学大学院理学研究院生物科学部門 教授 島崎研一郎
Tel & Fax: 092-726-4758
E-mail: kenrcb@mbox.nc.kyushu-u.ac.jp (お手数ですが@を小文字に変換してください。)
基礎生物学研究所 光情報研究部門 特任教授 和田正三
Tel: 0564-55-7610
E-mail: wada@nibb.ac.jp(お手数ですが@を小文字に変換してください。)
[報道担当]
基礎生物学研究所 連携・広報企画運営戦略室
Tel: 0564-55-7628
E-mail: press@nibb.ac.jp(お手数ですが@を小文字に変換してください。)