第25回 配偶子制御セミナー

超高速シークエンサーに基づくゲノム・トランスクリプトーム研究

講師  八谷剛史 博士
所属  慶應義塾大学 理工学部 生命情報学科
日時  平成24年8月6日(月)17:40-19:00
場所  弘前大学農学生命科学部 203講義室

講演の内容
 「The genomics juggernaut threatens to bury us all in a blizzard of data and detail…(不可抗力的なゲノミクスの脅威。我々はデータの波に飲まれてしまうのか・・・。 ”Aquatic Food Webs: An Ecosystem Approach” pp18より抜粋)」。生態学者であるJames J. Elser教授およびDag O. Hessen教授は,超高速シークエンサーについて,このように感想を述べている。データの波が押し寄せてくる脅威から身を守るだけでなく,うまく波に乗って生物学を前進させるためには,どうしたら良いのだろうか?  
 近年のシークエンス技術の進歩によって,1塩基当たりの単価が驚くほど安くなってきている。2012年夏現在の最先端機種を用いれば,1万円で5Gbpの配列が得られる。この価格の低下により,限られた予算でも多くのゲノム・トランスクリプトームを比較できるようになってきた。発表者が携わった研究事例では,例えば,複数の納豆菌ゲノムを比較することにより,黒豆発酵能などの表現型に寄与するゲノム多型を同定することができた。また,複数のトランスクリプトームを比較することによって,ハダカデバネズミにおいて,種特異的に心臓で発現する興味深い遺伝子を見つけることができた。このように,ゲノム・トランスクリプトーム比較は,極めて強力な仮説生成プロセスとなり得る。目的の生物学的な問いに対して,何と何を比べれば仮説を生成できそうか,研究計画を上手に組むことが,データの波に乗るために重要と言える。今後も,シークエンス技術の革新によって,塩基当たりの単価は安くなり続けると予想されている。10年後には,ひとつのトランスクリプトームを調べるコストが,1,000円を切るかもしれない。発表者が携わってきた研究事例を伝えることで,将来の研究計画の一助となれば幸いである。  
 一方で,ゲノム・トランスクリプトームを比較するためには,参照ゲノム配列の精度が重要である。参照ゲノム配列を解読することは,未だに時間と労力を必要とする。次世代シークエンサーに基づくゲノム解読の過程についても,紹介したい。

問い合わせ ;
弘前大学農学生命科学部 
小林一也 (kobkyram@cc.hirosaki-u.ac.jp)
℡:0172-39-3587


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