Report

新学術領域研究「配偶子幹細胞制御機構」世界進出戦略を目論んで〜総括班広報係によるドイツ出張報告記

開催期間:平成23年3月23日 - 26日
開催場所:Dresden University of Technology, Germany

慶應義塾大学 医学部 総合医科学研究センター
特任講師 小林一也(計画班員、総括班広報係)

 年末に吉田領域代表から電話があり、3月末にドイツ・ドレスデンにおいて開催される日独合同発生生物学会(Joint Meeting of the German and Japanese Societies of Developmental Biologists)で領域の宣伝をしてくるよう要請があった。これは新学術領域研究に採択された発生生物関係のグループ活動をパネル3枚のポスター(※)でもって紹介し、日本から発信するサイエンスの世界進出戦略の機会とするというもので、日本発生生物学会会長の阿形清和先生の肝煎りの企画である。配偶子幹細胞制御機構の総括班広報係である私に白羽の矢が立つのは当然なことであるが、他人の研究をポスターにして説明できるほど理解しなければならない作業、そしてそれを紹介することの責任に重圧を覚えたのが正直なところであった。しかし、私自身が日本発生生物学会員であること、4年半前にドイツに留学していたこと、阿形先生がプラナリア研究でつながりがあり、足をむけて寝ることのできないほどお世話になっている存在であること、どれをとっても私が辞退する理由はなかった。ポスターのタイトルは、配偶子幹細胞制御機構をそのまま英訳して “Regulatory Mechanism of Gamete Stem Cells” とした。何事もぎりぎりまで用意を始めない私にとって、未完成の3枚のポスターを抱えた状況で起こった例の大震災は、さすがに私の焦りを最高潮にした。出発の4日前には阿形先生から電話があり、大変光栄なことに震災で行けなくなったスピーカーの代打を頼まれ、また、航空会社の都合で成田空港発の便が急遽、中部国際空港発になり、ドレスデンまでのスケジュールを大幅に変更せざるをえなくなるなど、波乱の中での出発となった。
 ドレスデンはチェコとの国境約30kmに位置する旧東ドイツの人口50万の都市である。以前、私が住んでいたチュービンゲンのあるドイツ南西部に比べて、英語での会話がスムーズにいかないことが多かった。日本のJRにあたるDB(Developmental Biologyではない。Deutsche Bahn:ドイツ鉄道)のみどりの窓口では、英語を理解しているはずなのに頑としてドイツ語でチケットの説明をする駅員に閉口した。一方、この地方のビールは南西部に比べて私の口にあったのは幸いだった。そんなドレスデンライフの2日目の夕方から、ポスター発表、代打の招待講演を連続で行った。ポスター発表では多くの人に来てもらい、用意した宣伝のパンフレットも概ね配ることができた。小林悟グループの林良樹さんの仕事に大変関心のある地元ドレスデン大の研究者からは私の知識を超えた質問が多数あったが、私のグループメンバーである小林悟研出身の前澤孝信さんが首尾よく対応してくれた。招待講演では、準備期間の短さのわりに私自身の本領域における立ち位置を意識した発表ができたと思う。発表の最後に吉田領域代表主催で今年7月に開催予定のThe 58th NIBB Conference “Gamete Stem Cells” を約200人の聴衆を前に宣伝してきた。震災の影響で延期となったものの開催されたあかつきには、欧州からの参加者が増えることを期待したい。
 私は本領域で遂行中のプラナリア研究の基盤となる成果を、1998年にアムステルダムで開催されたThe 8th International Congress on Invertebrate Reproductionで、国際会議としては初めて発表した。その時、今よりも拙い英語で怯えていた私をゴカイの発生生物学で著名なProf. Dr. Albrecht Fisherが大変気遣ってくださった。その彼にまさかこの会議で再び会うことができるとは思いもしなかった。引退して74歳になるという。アムステルダムでの会議で彼が引き合わせてくれたProf. Dr. Nico Michielsが後に私のドイツ留学時代のボスとなる。妙縁を感じつつドレスデンをあとにして3年ぶりにチュービンゲンを訪問してから帰国の途に着いた。今回の任務は、サイエンスを純粋に楽しむことのできた初心を思い出させ、本領域研究後半戦を迎える若干疲弊気味の私にとって本当に良い刺激となった。この機会を与えてくださった吉田領域代表、そして阿形先生に心より感謝しつつ筆を擱くことにする。

(※)Poster
Regulatory Mechanism of Gamete Stem Cells: K.Kobayashi, T. Ogawa, S. Kobayashi, G. Yoshizaki, Y. Niki and S. Yoshida: Joint Meeting of the German and Japanese Societies of Developmental Biologists, March 23-26, 2011, University of Dresden, Dresden, Germany

2011_03_Dresden
















写真提供:小林一也
左:Dresdenの街
右:(左から)前澤孝信、橋山一哉、小林一也

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