2010年10月2日に行われた基礎生物学研究所の一般公開において
参加者の一部の方々に反応速度を調べるゲームをやっていただきました。
実験に参加していただいた方にはこの場をお借りしてお礼を申し上げます。

以下に実験の結果を公開します

導入)
参加者の「視覚刺激」、「音刺激」、「視覚と聴覚の組み合わせ刺激」に対する反応時間を調べた。
一般的には視覚や聴覚単独刺激よりも、同時刺激のほうに速く反応できることが知られている。
これは脳の中で視覚情報と聴覚情報の統合が起きるためであると考えられる。

目的)
そこで、このゲームを利用して、この視聴覚刺激による反応時間の促進が実際におきるかどうか
そしてこの現象が性別や年代によってどのように異なるのかを調べた。


方法)
・「視覚刺激」、「音刺激」、「視覚と聴覚の同時刺激」、の3種類の刺激をランダムに提示し(*注1)、
・刺激を感知したらできるだけ速くボタン(キーボードのリターンキー)を押すよう指示した。
・被験者が刺激提示のタイミングを予測できないようにするため、各刺激は1-5秒間のランダムな間隔をあけて提示した。
・各人、30回の試行を行い刺激の種類ごとに平均値を算出した。


結果)
201人の被験者の協力を得た(表)。



被験者は特に男の子と成人男性が多く、青年・老人は若干少なかった(*注2)。

まず、各被験者の平均反応速度の分布を示す(3種類の刺激のうち最も速い平均反応時間)。
各被験者の平均反応時間は0.22秒から0.62秒の範囲に分布し、全体の平均は0.31±0.06秒、中央値は0.30秒だった(*注3)。


図1

次に、各種刺激ごとの全体平均および反応時間の分布を示す。

図2RTdist



視覚や聴覚刺激に比べ、視聴覚同時刺激に対してより速く反応でき(0.2-0.3秒)、そして遅い反応時間(0.4秒以降)が
減少していることがわかる


しかし、実際に各個人において視聴覚刺激に対して速く反応しているのだろうか?
そこで、各個人の「視聴覚刺激に対する平均反応速度」と、「視覚または聴覚刺激の速いほうの平均反応速度」を比較してみる。

図4-1

多くの場合、視聴覚刺激に対する反応時間が、視覚と聴覚の速い方よりもさらに速くなっていることがわかる。


以下にどれくらい速くなったのか集計した。
「反応時間の促進」=「視覚・聴覚の速いほうの反応時間」 - 「視聴覚に対する反応時間」

図3

促進の程度は最も大きいもので0.16秒!という人がいた。
84%の被検者(169/201)は視聴覚刺激に対する反応のほうが速かった。
一方、残り16%の被験者は反応速度促進を示さなかった。

反応速度促進は年齢や性別と関係があるのだろうか?

まず、性別による反応時間の違いはみられなかった(男性:0.31 ±0.05, 女性:0.31 ±0.06)。

一方、反応時間は子供と老人は若干遅い傾向にあった(図)。














しかし、興味深いことに反応速度促進の程度を年代別に調べてみると、
特に老人グループでは促進の程度が大きいことがわかる。
興味深いことに、老人グループでは反応時間促進がマイナスの値を示す被験者が一人もいなかった。
(マイナスになるのは、視覚または聴覚刺激の存在がもう片方の刺激への反応を邪魔するためで、
視覚刺激と聴覚刺激を同等なものとみなせい、つまり統合することができていないことを示唆する。)




考察)
なぜ老人では感覚統合が顕著なのだろうか?
動物を使った過去の研究によれば、感覚統合は生後発達とともに獲得する能力であり、
年を取るほど統合する能力は増加すると言われている(Laurienti, et al., Neurobiol Aging 2005)。
動物は、加齢と共に衰える知覚・運動能力を異なる種類の感覚情報を統合することによって補っているのかもしれない。



脳はどのようにして視覚と聴覚情報を統合し、反応速度を促進するのだろうか?

我々の研究室はねずみ(ラット)を使った動物実験によってこの神経メカニズムを解明することを目指している(和文解説)。


これまでの研究で、

@ラットで反応時間を正確に測定する実験系を開発し、ラットも視聴覚統合による反応時間促進を示すことを
行動学的に示した(Sakata et al., 2004, [PubMed])

A視覚と聴覚情報の統合が起きる場所として、大脳皮質二次視覚野の重要性を示した (Hirokawa et al., 2008, [PubMed])

B中脳(上丘)が統合された情報を受けることによって反応時間促進に関与することを示した (Hirokawa et al., in prep)

今後は、大脳皮質と上丘の関わりを調べることによって、感覚統合がどのように認知プロセスを強化しているのかを
明らかにする必要がある。

文責(JH, 2010年10月5日)

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注1)
ゲームはWindows PC上のLabview software(National instruments)によって制御した。
視覚刺激はコンピューターディスプレイ上に提示(7X7cmのボタンが灰色→緑色へ点灯)
聴覚刺激は同じディスプレイの全面下部に付属のスピーカーよりビープ音を鳴らした。

注2)
各年代は、実験者の主観で以下のように分類した。
子供:小学生以下
青年:学生(中学生から大学生程度)
大人:20代後半から60歳未満程度
老人:60歳以上


注3)
反応時間は実験系(刺激の強度など)に依存するのでこの値自体はそれほど意味のあるものではない。

注4)
平均値±標準偏差で表示。

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